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「ミハシはムードメーカーだし、いっつもバカやってる様に見えるけど、本当は辛い思いしてきたんだ」
 キタムラが言う。オオサキは黙って息を喫んだ。
「この世界に居るって事はさ、皆何かしら訳有りなんだよ」
黙り込んだその顔を覗くように、キタムラがため息をついた。実際そうなのだから仕方がない。変えられない過去を仲間に隠し通す事なんて、所詮は無理に決まっている。
「お前だってそうだろ?」
「それは、まあ、はい」
 オオサキは眉をひそめて頷いた。
 重くなった空気を一掃するように、キタムラは手をパンパンと二回程叩くと、朗らかに言った。
「さっ、明日の作戦会議でもしようか。俺はサノちゃんと準備するから、オオサキはミハシのこと一階に連れてってちょうだい」
 ニコッと笑って明るい声でそう言うと、キタムラはオオサキを残し、足早に部屋を出ていった。


 リビングには四人が集まっていて、窓からは午後の暖かい光が射し込んでいた。
「サノ、三区の地図持ってきて」
「はい」
 キタムラが指示をすると、サノがてきぱきと地図をテーブルに広げる。その周りにはキタムラを囲むように、オオサキとミハシとサノが並んでいる。
「これから会議を始める」
 キタムラが地図を睨む。
「まず、今回の目的はクルードの指揮官、イノウエの調査だ。イノウエを追うのは俺とオオサキ。ミハシはOD、他組織の見張りをよろしく。イノウエを追えばかなりの確率でクルードの上層部に辿り着く」
 キタムラが机に両手をつき、言った。
「何でそう断言出来るんですか」
 ミハシが首を傾げる。
「それはこの前オオサキに盗ってきてもらったデータだよ。あれ、クルードの指揮官の名簿だったんだ。一番上にイノウエの名前があった、多分地位順だろ。上層部に直に通じる人間なんて、指揮官の内のほんの一握りだ」
「あぁ、成る程」
 納得してポンと手を打つ。
 少し前の任務でオオサキはクルードの本部に潜入し、何かのデータのコピーを盗ってきた。その時キタムラはそれが何のデータなのか言わなかったが、それも全て、明日の為だったのか。
「だから今回の任務はイノウエの周りの関係を把握する為だと思ってくれ」
「もし隙があったらどうするんですか」
 サノが割る。オオサキは横目でキタムラを見た。黙り、眉間に皺を寄せている。
「取り敢えず、相手がいくら隙を見せたとしても会場付近では人目に付く。表の人間や警察が集まるのは厄介だからね」
 片手を顎に当て独り言のように呟いた。ここがクルードやODならば、迷う事無く暗殺するのだろうか。
「会場は第三区の中心部、扇情街路地裏の奥の劇場……」
 地図の一カ所に赤い画鋲を刺すと、キタムラは、唸った。

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