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今、私が願えることは










未胡side




私は亮くんの後ろ姿を見送った。
どんどん小さくなっていく亮くん。
それは一度も振り返ることはなくて。
私は……見つめることしか、できない。


「………」


ふと、亮くんの髪に触れた自分の手を見た。
まだ…微かなぬくもりを感じる。
そしてそれをぎゅっとにぎった。
どうしてこんなにも、切ない気持になるんだろう。
それはとても苦しい。
苦しくて……胸が締め付けられる。


「亮くんに……嘘、ついちゃった……」


初めてついた嘘。
意図的についた嘘。

本当は、帰らないといけない用事はない。
先生のところにも、寄る用事なんてない。
私は、亮くんと一緒にテニスコートに戻ることができた。
それでも……嘘をついて、亮くんから離れたのは、


「………っ」


この苦しくて切ない衝動を、抑えるため。
亮くんの傍にいたら、きっと…溢れだしてしまいそうな、
ある感情を……押しこめるため。


「まだ、いけない……」


これは私の強がりかもしれない。
それでも……私はあなたを、信じてるから。
だから私も、決心を揺らがせない。
そう、決めたから。


「……亮くん、不思議そうな顔してたな…」


「その女の子のこと……他には覚えてないの?」

思わず口から出た言葉。
誤魔化し方、不自然じゃなかったかな。
亮くんも、気にしてないと良いけど…。

私はふと、亮くんが戻ったテニスコートを眺める。
そこからは、微かに部員たちの掛け声が聞こえた。
その熱気の中に、亮くんは居る。
まだ…必要とされている。
大好きなテニスに情熱を注いで、
この夏の今の時期を大切にして、
私のために…約束までして、
今はそれを、ただ……応援してあげたい。


「もう少しの…我慢、だよ」


私は自分の胸を押さえる。
苦しみは少し和らいだ。
大丈夫。大丈夫だよ。

きっと、いつか―――――



そう想いを描きながら、
祈りながら、
私は静かに、その場を去った。










今、私が願えることは
(彼のこれからの頑張りを、ひたすら見守ることだけ)








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