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あなたの為にしてあげられること










未胡side




亮くんが私を呼ぶ。
景吾はそれに気付いて、鳳くんを連れて私の横を通り過ぎる。
すれ違いざま、私を安心させるかのように笑った。
そうして、私の背後を二人の足音が遠くなっていく。


「……見てたのか」
「うん…ごめんね。心配になって…」
「いや、いいぜ。俺のほうこそみっともねぇ姿見せちまって……」


亮くんはそう言って恥ずかしそうに頭を掻く。
そんな亮くんに、私は首を振って、


「そんなことないよ。…すごく、かっこよかった。亮くんの決意が、すごく伝わってきて…」
「……そうか?まぁ、跡部に力借りちまったが、これからが勝負だからな」
「うん。私、ずっと応援してるから」


そう言って笑うと、亮くんは小さくありがとうと言った。


「……悪いな、今まで」
「え?」
「なんか……たくさん心配かけちまったみたいで…」
「……うん。本当、心配してたんだから」
「悪いって」
「でも、嬉しい」
「?」
「亮くんがレギュラーに戻ってくれて。…亮くんの、努力が報われて」


2週間……私は、亮くんの頑張りを見てきた。
少しやりすぎだとも思ったけど……止めることができなかった。
それが亮くんのやり方なんだって。
私なんかが、とやかく言う筋合いはできないから。
亮くんが大丈夫って言っても、心配で仕方がなかった。
傷だらけの亮くんを見るのは、私も胸が痛んだ。


「本当に……っ」
「未胡……」


日々増えていく痣、かすり傷や切り傷。
亮くんの顔も、だんだんと険しくなっていて……。
それでも私の前では笑ってくれた。
特訓の事、心配させたくなくて。
それが更に私の気持ちを複雑にさせていた……。


「本当に、よかったっ…」
「……泣くなよ、」
「だってっ……」


ごめんなさい。
あんなに長かった髪を切ってまで、亮くんはレギュラーの座を取り戻したかった。
その気持ちに私は気付けてなくて。追いつけてなくて。
そんな自分が少しだけ恥ずかしくも思えた。


「未胡…ありがとうな。こんなに、俺の事を考えてくれて……」
「ううん……私、何もできてなかった」
「そんなこと言うなよ。未胡は、すげえ俺に力をくれたって」
「でも…」
「これは、俺のけじめだから。未胡が気負いすることねぇって」


亮くんは私に笑いかけた。


「だからほら、笑ってくれよ。未胡は、笑顔が一番似合ってる」
「っ……」


「笑った顔、いいな」

亮くんの、言う通りだ。
私は前にも同じことを言われた。
それを……さっきまで、忘れていたみたい。


「うん……」
「それそれ。やっぱ未胡が笑ってると、俺も落ち着く」


亮くんも同じように笑ってくれた。
私は目に溜まっていた涙を拭いて、


「レギュラー復帰おめでとう、亮くん」
「ありがと、未胡」


私も、
亮くんのその笑顔が好きだよ。


「……でも、復帰したからにはこれからを頑張らないとな」
「そうだね」
「ああ。このことを良くないと思う奴もいるだろうが、それを認めさせねぇとな」
「亮くんならできるよ。ここまでやってこれたんだもん」
「まぁ、やれるとこまでやってみるさ」


そう言って亮くんは伸びをした。
少し風が吹いて、亮くんの短くなった髪がなびく。


「……ねぇ、亮くん」
「ん?」
「髪の毛、私が整えてあげようか?」
「えっ……でも、いいのか?」
「うん。こう見えても私、手先は器用だよ」
「だけど…」
「心配しないで。少し整えるだけ」


私はにこっと笑って言う。
亮くんは少し困ったような顔をしたけど、頷いてくれた。
私は地面に置いてある鋏を拾って、


「じゃあ……少し人目のつかない所に行きましょ」
「ああ…」





これで、

あなたの髪に触れるのは何度目だろうか。










あなたの為にしてあげられること
(今はあなたの傍で笑顔でいることしかできないけど、いつか、)








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