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優しさと信頼と向上心










試合終了の笛が鳴った。
俺は、ゆっくりと体を起こした。
コートの向こうと見てみると、岳人と忍足が楽しそうな顔をしている。
そこからも自分が負けたというのがひしひしと分かった。


「っあの……宍戸先輩、」
「………出るぞ」


試合後の挨拶なんて忘れて、走ってコートから出た。
その後を長太郎がついてくる。


「亮くん、」
「っ………」


ガシャン、と乱暴にフェンスのドアを開けると、未胡がタオルを持って立っていた。
俺はまともに顔が合わせられない。


「その……お疲れ、試合……頑張ったね」
「……。また、負けた……」
「…仕方ないよ。ダブルス、初心者なんでしょ?」
「………悪い。俺、ちょっと休んでくる」
「あっ……」


必死で慰めようとしてくる未胡を見るのが辛くて。
自分が情けなくて……俺は未胡の横を過ぎた。
長太郎は未胡に少し頭を下げて、俺についてきた。


「亮くん………」
「しばらく放っとけ」
「……また、景吾は…」
「それがあいつにとっての慰めだ。あいつ、同情は一番嫌うからな」
「同情……」
「まぁ、お前のが同情じゃないのは、あいつは分かってると思うけどな」


跡部はそう未胡に言って、コートに戻るように促した。
未胡は背後を気にしたが、自分にできることは何もないと考え、跡部の言うとおりにした。







No side




「し、宍戸先輩っ!」


あれからずんずんと進む宍戸を必死で呼びとめる鳳。
そしてようやく、宍戸は足を止めた。


「………」
「宍戸先輩……仕方ないですよ。俺も、緊張してましたし……ダブルスも、経験ないですし……」
「……知ってる」
「だから、あの二人のダブルスに負けても……」
「俺は、言い訳は嫌いなんだよ」
「っ………」


冷たく言い放つ宍戸。
鳳も言葉を失う。
1年の頃から厳しい先輩に意見するのはやっぱり難しい。
しかも不機嫌な時に。
この人は、いつも勝利にこだわる人だから。


「……勝たなきゃ、俺は……」


宍戸の声が少し震える。
ただでさえ、橘との試合に負けてレギュラーの座から落ちたのに。
いくら1ゲームとはいえ、また負けた。
その悔しさに、震えている。


「………。長太郎、お前は俺に聞いたよな」
「え……」
「『俺の理想のカウンターは何だ』って」
「あ……はい、聞きました」
「俺は『向かってくるボールに一瞬で追いつけるカウンター』と答えたよな」
「はい……」
「それを、お前どう思った?」


宍戸はようやく鳳を見た。
その真っ直ぐと、真剣な眼差しに鳳は一瞬何を言おうか迷う。
だが、一拍して、自分の正直な気持ちを述べた。


「俺は……あの時も言いましたが、宍戸さんらしいと思いました。いつもギリギリまで粘って、努力家な宍戸さんなら……できると、思いました」
「……努力家、か……」


宍戸は少し黙る。
この沈黙をどうしようかと、鳳が思案している時、


「……それを、お前は手伝ってくれるのか?」
「え……」
「俺のために、お前のために、手伝ってくれるか?」


お前のため?
宍戸は、自分の為にも何かしてくれるのだろうか。
それだとしたら、宍戸と一緒にダブルスを極められる。
ずっと憧れていた先輩と。
鳳はそう考えて、返事をした。


「は、……はい。俺、頑張ります!」
「そうか。なら早速、今日の夜、この学校な!」
「え?夜?」
「放課後とかだったら人が居て邪魔だろ?夜、誰もいない時に練習だ」


この時、もう宍戸の様子は普段と同じで安心していた。
鳳も、もっと宍戸は落ち込んでいると思って心配していたが、その様子で鳥越苦労だということに気付いた。


「いいか、このことは絶対に秘密だからな」
「はい!」


宍戸は笑っていた。
それだけで鳳は安心していた。

だが、この後の特訓に、軽々しく返事してしまったことに後悔することになる。










優しさと信頼と向上心
(絶対に俺は上り詰める……!全国の舞台で戦う為に!)




 



あきゅろす。
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