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俺の運命を変えるこの一言










橘とかいう男に負けてから、立ち直るまで。
そう時間はかからなかった。
日向が……いや、未胡が。
俺は一人じゃないんだと教えてくれたから。
俺には支えていてくれる人が居るんだって気付かせてくれたから。

俺に見えていなかったのは、その周りの人物。

ただ前だけを見て、目標だけを見て、なりふり構わず突き進むだけの俺だった。
だが、今回知ることができたんだ。
一人で戦っているんじゃないんだ。
俺には仲間≠ェ居る。
そして、その仲間と共に、同じ目標に向かっていかなければならないんだ。
妥協を知ること。
それがチームワークであり、メンバーの一員としての義務。

それを、俺は今回の負けと、未胡に気づかされた。
そして何より、俺に火をつけさせてくれたのが
地区大会を5位で通過できたこと。
俺たちはまだ、終わっちゃいない。
まだ先がある。
まだチャンスがあるんだ。

そして、俺は決めた。
再び
もう一度
テニスコートの上で
試合をして
全力を尽くして
声援をひしと受け止めながら
もう一度
未胡の前でテニスがしたい――!

俺は、変わってやるんだ……!







俺は一人で走っていた。
とにかく強くなろうと。
正レギュラーを取り戻すには、それ相応の努力と強さが必要だ。
監督に、それを認めてもらう為に。
自分が納得できるまで、基礎体力作りから始めた。


「………亮くん、」
「?……あぁ、未胡か」


走っていると、横から声をかけられた。
見ると、未胡が手を胸の前で持って俺を見ていた。


「どうしたんだよ?」
「……亮くん、さっきからずっと走ってるでしょ……?」
「ああ……強くなるためにな」


そう言うと、未胡は複雑そうな顔をして視線を地面へと向ける。


「…?何かあったのか?」
「あ……えっと……亮くんの、汗の量が……」
「………?」


部活後の時間を使っての運動だから少し汗の量が多いのも仕方がない。


「このくらい普通だぜ?……んじゃあ、また走ってくる」
「………ねえ、無理しないで」
「無理…?俺は無理なんてしてねーよ」


心配している未胡に不安をかけない為に俺は笑って、そしてまた走りだす。
悲しそうに俯く未胡を置いて。







規則正しく、自分の呼吸の音しか聞こえない。
もう大分人は居なくなった。
日も落ちてきて、視界の全てがオレンジに染まった時、


「宍戸」
「……?」


さっきとは違う声が、俺を止めた。


「……何だよ、跡部か」
「お前、今までずっと走ってたのか?」
「……まぁな」


答えると、跡部は困ったように深い溜息をついて、


「お前が頑張りすぎるせいで、俺のところに苦情がきたぜ?」
「?苦情って……」


跡部の背中からひょこっと出てきたのは未胡。
少しばつの悪そうな顔で俺を見ていた。


「未胡……もしかして、跡部に言ったのか?」
「ごめんなさい…。頑張ってる亮くんを見るのは、嬉しいよ?でも………、」


そこまで言って、急に黙ってしまう未胡。
代わりのつもりなのか、次は跡部が口を開く。


「お前な、ただ走ってるだけで強くなれるんだったら苦労しねえんだよ」
「……何だよ、文句でも言いにきたのか?」


跡部の嫌味口調に俺の眉が寄る。
それでもしれっと、跡部は言葉を続けた。


「お前、また懲りずにシングルスを狙うつもりか?」
「……悪いかよ」


俺にはシングルスしかない。
今までそれで頑張ってきたように。
これからも。


「ばーか」
「…!なっ、」
「また同じ失敗をするつもりか?一人でがむしゃらに鍛えてても結果は同じだぜ」
「………」
「宍戸、お前は一人じゃないって、未胡から教えてもらったんだろ?」
「………」


跡部の言葉に、ふと未胡を見る。
未胡は心配そうに跡部を見上げながら、たまに俺もちらっと見ている。


「もっと考えろ、宍戸」
「……。だから、お前は何が言いたいんだよ」


俺が言うと、跡部は馬鹿にしたような笑みを見せ、


「シングルスがだめなら、ダブルスがあるだろうが」


思いがけぬ言葉。
衝撃の一言。
まさにこのことを言うんだろうな。
俺は思ってた。
ダブルスは馬鹿らしいと。
自分の力だけじゃなく、
相手の力を頼らないと勝ちに向かえないんだ、と。
馬鹿にしていた。
でも、経験してみることで気付けることがある。
俺はダブルスを経験してみることで、
馬鹿らしいと思っていた自分を、本当に馬鹿だと思う日が、来るなんて。










俺の運命を変えるこの一言
(仲間の助言なんて、まともに聞いたことなんて無かったが……これには感謝している)








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