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貴方に贈る夜想曲










挨拶が終わった後、景吾は樺地くんを連れてどこかへ行ってしまった。
私も後を追い掛けようとしたけど、コートを人混みが囲んでいて中々抜け出せない。
早く。
早く。
景吾に言わないと。
頼まないと。
亮くんを、
あんなに頑張った人を、
許してあげて――――


「っ……景吾、……!」


悔しがってる人、悲しそうにしている人。
様々な気持ちを抱いている人を掻き分け、ひとつの人物を探す。
景吾は優しいけど、ルールには厳しい。
いくら友達でも、悪いことは悪いと言えるような、責任感の強い人。
そこが景吾の良いところでもあり、難しいところ。


「……!」


居た。
少し離れたコートの付近で。
携帯を片手に何か話している景吾の姿。
私が少し息を切らして景吾の前に行くと、景吾は携帯を樺地くんに渡した。
遅かった。


「っ景吾……」


肩で息をする私を、景吾は一瞬悲しそうな顔をしてみたけど、すぐにいつもの厳しい表情に戻る。


「今の、試合……」
「まあいい」
「……!?」
「結局、5位決定戦に残りさえすれば、関東へ行けるしな!」


違う。
私が聞きたいのはそんなことじゃない。
言った途端、視線を逸らす景吾。
待って……。
私は、
私は、ただ……っ!


「景…「いくらお前の頼みでも、無理だぜ」


まるで、私の言いたい事を知っているかのように言葉を下す。
私は一瞬にして全ての言葉を無くした。
ちら、と横目で遠くの氷帝レギュラーの姿を見た。
亮くんは、俯いていて。


「未胡、お前も知ってるだろ。氷帝テニス部の方針を」
「……っでも、」
「お前が何を言おうが、変わらねぇ。もしここであいつの負けを見逃したら、後輩にも示しがつかない」
「………」


分かってる。
分かってるよ。
でも……やっぱり、景吾の言うことは正論で。


「それに、」


もう一度横目で皆を見てみると、レギュラーの皆が慰めるかのように亮くんに近づいた。
それでも、亮くんは一人でその輪から出てしまって。


「情けをかけたところで、満足するような奴じゃない。………あいつは」
「………っ」


確かに、私の言っていることは全ていけないこと。
亮くんの為にもならなければ。
氷帝テニス部の為にもならない。


「だけど……っ、」
「心配しなくていい。宍戸は、こんなとこで諦めない。図太いからな、奴は」
「……景吾、」


私よりずっと高い位置にある景吾の目を見ると、私を安心させるかのように、優しい眼差しに変わった。


「お前は、あいつを応援してやれ。……見守るのは、得意だろ?」
「……そうだね」


私は拳を握り締め、強く頷いた。
それから、短くお礼を言って次に私のやることをすべく、また走った。


「………ったく」


そんな姿を見て、跡部は呆れたように微笑し、軽く息をついた。







「亮くん!」
「………」


背中越しに声をかけても、亮くんは振り向かなかった。
背中で語っている。
今の俺に話しかけるな。
私に顔を見せたくなくて。
自分の失態を悔やんでいて。


「亮くん……大丈夫だよ。一人でそんなに背負い込まないで」
「………」
「頑張ったじゃない。私は、それだけでも充分凄いと思うよ。結果じゃなくて、その中の……」
「それ以上何も言うな!」
「………!」


今まで聞いたことのない、亮くんの大声。
やや怒っているような声音。


「……悪い。……だが、勝たなきゃ意味がねぇんだよ……!」
「……亮くん、」
「約束、したくせに……。自ら、それを破っちまって……」


「俺が、全国の舞台を見せてやるよ」


「俺は……もう、……日向に合わせる顔なんて……」


呟く亮くんを回りこみ、正面に立った。
今にも泣きそうな亮くんの表情は、驚きと戸惑いで歪む。
そして私は、


「未胡」
「……、?」
「未胡って、呼んで」
「………未胡……」


小声で、呟くように言う亮くんに、私は微笑を見せた。
大丈夫だよ。
誰も貴方を責めていない。
だから、安心して。
そういう気持ちを込めて………。


「躓いたって、また立ち上がればいいじゃない。それに、まだ全国への舞台は終わってないんでしょう?」
「……っ、ああ……」


景吾も言ってた。
まだ、5位決定戦があるって。


「……っだが、俺はもう正レギュラーじゃ、」
「ここで諦めるような、亮くんじゃないんでしょう?」


言葉を遮って、亮くんに自信を持ってもらえるように言葉をかける。


「……未胡、」
「亮くん、少しの間、私の歌を聞いてくれる?」
「………歌?」
「うん。誰かが辛い時に、元気になってもらう為の歌」


急な事で驚いているかもしれないけど、私は構わず息を吸い込んだ。



「たとえば貴方が
 小さな 小さな石に
 足を止められても
 顔を上げて We have the future(私たちには未来がある)
 
 たとえば貴方が
 哀しみ 憂い嘆いて
 迷ってしまっても
 覚えていて Happiness depends on you(貴方には幸せが待っている)

 Worry is not necessary!(心配なんて必要ないよ)
 貴方は一人で たった一人で
 戦っているんじゃない
 貴方は一人じゃない
 孤独じゃないのだから…
 だって、
 だって、
 You have a waiting person(貴方には待ってくれている人がいる)」



歌っている時は気付かなかったけど、亮くんはこの歌を聞いて少しだけど、涙を流してくれた。
私の想いは、届いたって思っていいのかな?
私は、ずっと見守っているから。
貴方が、強くなっていくのを。
頑張っているのを。

また私に笑顔で微笑んでくれることを。
私は、待ち続けるから。










貴方に贈る夜想曲
(貴方の為に、私の想いを全て乗せます)








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