君に捧げる勝負の行く末
コートに着くと早速ジローがラケットを振って迎えてくれた。
「宍戸ー!」
「はいはい、分かったからそんなに大声出すな」
俺もコートに入る。
すると周りから甲高い声が聞こえた。
ギャラリーの女子の声だな……。
ったくうるせえ!
「んじゃ、とっとと始めようぜ」
「オッケー!」
ゲームは俺のサーブから始まった。
タンタン、ボールをコートに打ち付ける音だけが今の俺には聞こえる。
そしてボールを握り、相手コートを見据える。
ジローも意外に真剣なのか、体制を低くしていた。
俺は高くボールを投げ、ラケットを振った。
パァン!と気持ちの良い音が響き、ボールをコートに打ち付ける。
「わっ!キョーレツ!」
そう声に出してはいるが、ジローは難なく打ち返す。
俺はネットにダッシュして一気にカタを付けようとスマッシュを打つ。
「まだまだっ!」
そのボールをすぐに打ち返してきたジロー。
俺は反応に遅れ、ボールを見逃してしまった。
「15−0!」
審判の声がコートに響く。
俺ははぁ、と息をついた。
「っへへ〜、まずは先取!」
「っせぇ。まだまだこれからだっつの!」
俺はジローに言い放ち、位置に戻る。
そこでふと横を見てみると、ある姿だけが俺の目に映った。
日向の姿だ。
日向は今、俺達の試合をベンチで見ている。
俺が見ているのに気付いたのか、日向はにこっと微笑んだ。
そして、口パクで何かを言った。
………頑張れ=B
多分、そう言った。
俺ははっと我に戻り、コートに目を戻す。
そして、ボールを握る手を強くした。
この勝負……負けらんねぇ。
「……いくぜっ、ジロー!」
「いいC〜っ!」
俺はまた高くボールを上げ、打った。
ジローは先程と同じように打ち返す。
今度はボールが来るのを待って、それを打ち返す。
しばらく、ラリーが続いた。
ジローも日向が見ているのに気付いたのか、かなり粘っている。
「(くっ……そろそろ決めねぇと……)」
俺は次に勝負をかけようとボールをネット手前に落とした。
それをジローは何とか拾う。
俺はその間にネットにつき、そのボールを高いロブで返した。
「う、わわっ!」
ネット手前に居たジローは追いつけず、俺の打ったボールはジローより遥か後ろで落ちた。
「15−15!」
同点だ…。
ジローは後ろを振り返ってボールを見たあと、俺へと視線を動かす。
「ちぇーっ!宍戸、そんなことできたのかよーっ!」
「……おい、どーゆー意味だよ」
「冗談だって!でも、次は俺が入れるからね!」
「……それはどーだかな」
少し会話をして、笑顔になったとこでそれぞれ位置に戻った。
そして俺はサーブを打つ。
今度はジローが攻撃を仕掛けてくるのか、ジローは打球を深く打ってきた。
それに力負けしそうになって少し当てるポイントが外れ、ボールは相手のネット手前に落ちそうになる。
そこには既にジローが居た。
「もーらいっ!」
「!」
ジローお得意のボレーでこの一点は決められた。
「へへー。この勝負、もらっちゃうよ〜?」
「……だから、どうだかな」
俺はへっと笑い、新たにサーブの準備をする。
すると、気のせいか……ジローが何か企んでいるような笑みになったような気がする。
目をこらして見てみると、いつもの楽しんでいる笑顔だったから、気のせいだと思った。
そして、俺のサーブを打つ音が響いた。
………
「40−30!」
結構なラリーが続いて、やっと俺のリードとなった。
「…次で決めてやんよ」
「俺は負けないよ〜!」
自然と視線が日向の方へと向いた。
すると、そこにはベンチから立ち上がっている日向が見えた。
そして…これは俺の勝手な思い込みだが、拳を握って勝負の行く末を見守っているように見えた。
それは、ギャラリーの俺たちを見ている目じゃなく、俺達の試合≠見ている目だと一瞬で分かった。
俺は心を落ち着け、試合へと意識を戻す。
「……っくらえ!」
今までで一番力を込めたサーブを打った。
ジローも集中力が研ぎ澄まされていて、すぐさまボールへとつく。
それをジローは鋭く打ち返す。
「くっ……」
俺は後ろへ下がって何とか打ち返した。
相手コートへと目を向けると、ジローは既にネットについていた。
「………!」
一瞬、ジローはにやりと笑ったような気がした。
あの体制は。
「(やべぇ……っ!)」
マジックボレー……。
決めさせるか!
足には自信がある。
俺は地を蹴ってネット前へと走る。
その時にはもう、ジローはポン、と音を立ててボールを打ち返していた。
「っ…決めさせるかぁあ!」
俺はラケットがボールに届くように願いながら滑り込んだ。
地面へと倒れ込みそうになり、俺は固く眼を閉じた。
その時。
確かに、ボールがラケットの上を跳ねた感触があった。
俺は受け身を取り、地面に倒れる。
正面を見ると、ジローは目を見開きボールの行く末を見ていた。
「っ……」
ボールはネットを越え、ジローの遥か左側へと落ちた。
タン、とボールが跳ねる。
そして、
「ゲームセット!ウォンバイ、宍戸!」
俺の勝利が2回目のボールの跳ねる音で決まった。
そこで歓声が上がる。
俺は信じられなかったが、次の瞬間ガッツポーズをして心の底から喜んだ。
君に捧げる勝負の行く末
(鬱陶しいと思っていた歓声も、この時ばかりは心地良いものに聞こえた)
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