記憶の欠片



「いっていいぞ。」
椎葉がヴァンクールを見ていった。

ヴァンクールの足が少し震えている。
「アシェル。ついてきて。」

アシェルはなんで自分なのか不思議に思いつつ、ヴァンクールについていった。


木の方向に進むと、小さな門があった。


ヴァンクールは汗をいっぱいかきながら
ギィ…
と、とっくに錆びてしまっている門をおした。

少し歩くと辺りは手入れされずにのびきった、草ばかりだった。


ヴァンクールが急に止まった。
「アシェルが先に…」
アシェルの顔を見ないでヴァンクールが呟いた。

アシェルは「ああ。」とうなずいてから前にすすんだ。




草のアーチを進んでようやく扉があった。
ここは家なのだ。
「あけるぞ」

ガチャッ。
鍵はかかっていなかった。



アシェルが中へ一歩進んだとき、

「うっ…。」
後ろでうめき声がしたと思って振り向くと、ヴァンクールが両手で頭をおさえていた。

「ヴァンクール…」
アシェルが目を細め、眉を寄せた。

「大丈夫なのか?」

ヴァンクールは額に汗を浮かべながら、
こくりとうなずいた。


玄関を無言であがる。
ギシッ

アシェルはここにはヴァンクールの秘密があるんだ。となんとなく予想していた。


玄関をあがってすぐ右に階段があった。

「まず1階を見てみるか?」

「うん。」


2人は奥へ進んだ。

廊下を少し歩いて開けた場所にでた。

壁などの隙間から光が射し込んでして、灯りがなくとも十分明るかった。

「リビングダイニングか」

アシェルは呟いた。

ヴァンクールは周りをキョロキョロしていた。


アシェルがふと壁をみると、血をふいたあとがあった、
他も見回すと椅子の足が壊れていたり、食器棚のガラスが割れていたりしている。

(ここでなにかあったんだ。)
アシェルの中をもやもやしたものがうずまいた。


ヴァンクールはふと、目を地面に向けた。
地面になにか落ちている。

「これは…」
写真たてが下をむいて落ちていた。
ヴァンクールはそれを恐る恐る拾って埃をはたいた。



「……」
ヴァンクールは写真を少し見た、そしてすぐ写真はヴァンクールの手から滑り落ちた。

ガンッ。


「おい!」
アシェルが叫んだ瞬間、ヴァンクールは頭を押さえた。


「うぅ。」
小さくうめいたあと顔に手を当てた。


「アシェル…。」
涙声でヴァンクールは小さくつぶやく。


アシェルはその様子を見て、地面に落ちた写真を手にとった。


「あっ。」
アシェルは写真をみつめた。


―――


5人が写っている。

家族だろうか。
後ろの真ん中にオレンジの髪の綺麗な女の人、その右隣に赤い髪の男の人、左隣に赤い髪の眼鏡の男の人。

そして前列にはオレンジの髪の少年と赤い髪の少年が写っている。

みんな笑顔だ。


「―この子、ヴァンクール?」
まさかと思い
写真を指さして尋ねると。

「うん。そうだよ。
アシェル…俺、全部思い出した。」




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あきゅろす。
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