最後の一発
同い年くらいの騎士の少女はシエルに気がつかないままゆっくりとエレベーターから降りてきた。
シャインはシエルにエレベーターに入るよう、顎で指図する。シエルは暗がりで小さく頷くと、少し風の力を借りて、音を立てずエレベーターに入ると、ドアの影に隠れた。
しかしシャインは全く動ける気配はない。前には騎士、後ろにはウォルケニア一味だ。シャインはシエルにエレベーターの扉を閉めるよう命じた。
(シャインを置いてなんていけない。)
シエルは驚きと悲しみの表情で首を横に振った。シャインは目は騎士の少女に向けているが、意識はシエルに向いている。シャインの後ろにはウォルケニアが薄笑いを浮かべてシエルを見ていた。騎士の少女はシャインを無視して、ウォルケニア一味にライフルの銃口を向けていた。まさに三竦で全く動くことができない。
シャインは唇を噛み締めた。
(シャイン......)
シエルは風をまとい、ウォルケニアの顔面に向かって風を飛ばした。風は騎士の少女の横を通りウォルケニアの顔に当たる。その瞬間、全員が動いた。
シャインはまず騎士の少女に殴りかかった。少女はそれをギリギリでよけたため、ほおに少しかすっただけである。そしてそのままシエルの方に走った。それをウォルケニアたちは追った。
「バカな奴ら。」
騎士の少女は動かないまま手を前に出す。その瞬間、空から銃弾の雨が降り注いだ。
ウォルケニア一味がバタバタと倒れていく中、シャインはエレベーターに向かって一目散に走る。
「バカな奴!」
騎士はシャインの方を振り向くと、大きなライフルをシャインに向けて、一発撃った。
パンッ
音と同時に美しい金髪が空を舞った。
「シャイン!」
息を吸っただけのようなか細い声でシエルは叫んだ。
「エレベーター内に!」
騎士の少女はシエルにようやく気がつくと、エレベーター内に手を向けた。
「シエル!行きなさい!」
シャインは背後の騎士の少女に向かって、散弾を放つ。飛び散った弾の一部が少女の手をかする。
「シエル!」
シャインの大声にハッとしたシエルは夢中でエレベーターのボタンを押した。重厚な扉は低い音を立ててしまっていく。シエルは最後に血の海の中で動かない金髪を見た。

ーーーーー

「邪魔をするな!」
騎士の少女は横たわるシャインに銃弾の雨を振らせた。シャインの体からは血が吹き出し、美しい金髪は数秒で赤茶色に変わる。
「私としたことが。」
騎士の少女はシャインの方に向かってゆっくりと歩いた。横たわるシャインをぼうっと見つめて頭をライフルで小突いた瞬間、
「え!?」
シャインの死体は無数の蝶になって消えた。
「幻術?私としたことが!」

ーーーーー

シャインは路地裏の水路を走っていた。足はひどく負傷して血が滲んでいる。あの銃弾の雨に当たってしまった。
幻術は攻撃で触れることができた騎士のみに効いていた。騎士からは逃げることができたが......
パンッ
シャインは腹に銃弾を受け倒れた。
「シャインちゃん。」
後ろにはウォルケニアがうすら笑みを浮かべて立っていた。取り巻きはもうおらず、ウォルケニア1人である。
「くそぉ。」
シャインはこの絶望的な状況に、生まれて初めて涙を流した。いままで自分のぶんもシエルが泣いてくれていたから。
「ようやく俺のものになるんだよ。」
カチャカチャとウォルケニアはズボンのベルトに手をかけた。
シエルに会いたい。シャインは一筋の涙を流しながら、愛くるしい自分の片割れを思い出した。
ショットガンの弾はあと一発。

ドンッ
(シエル。あなたと一緒に外を見たい。)

シャインの喉から頭にかけてが吹き飛んだ。
ウォルケニアは少し驚いた顔をした後、目を細めると、血や肉片で真っ赤に染まった金髪を撫で、水路を後にした。


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