悪夢
シエルが目を覚ますと目の前には懐かしい光景が広がっていた。真っ暗でカビ臭い部屋。明かりは窓から注ぐ光のみ。部屋の入り口は一つの小さな窓のみであり 、部屋のドアは針金で固く固定され、何年も開いていない。

シエルはベッドに注がれる月光に導かれ窓へと歩く。鍵をひらき窓を開けると、そこには一生見ることがないと思っていた景色が広がっていた。

隙間という隙間に家が建てられ、家の上に家、屋根の上には人。大きな道は危険なので”弱き者”は屋根を歩けと言われてきた。特に女性は家が特定されたら最後。辱められ、”強き者”のオモチャになる。
それがここカストレスラムの現実である。

ここには法律などはない。裁く者もいなければも警察もいない。カストレのスラムと位置付けであるが、全く異なる町と考えて良い。大きな道では毎朝酒と血の匂いのする死体が落ちている。身ぐるみを剥ぐ者はいても片付ける者がいない。
しかししばらくすると堪え難い臭いを発する。そうなると死体が忽然と消えているのである。何者かが耐えかねて能力で消したりしているのであろう。
路地に入るとそこら中に骨が落ちている。人のものなのか、動物のものなのかもわからないくらい、見事に白い骨ばかりだ。

このような町でシエルとシャインは育った。ただ他の人々とは少し違った。彼女たちには住む家と安定した食事があったからだ。彼女たちには職があった。スラムのA地区唯一の大きな酒場の店員だ。この町で女性が職につくということはほとんどなかった。あるとしても内職や、危険を顧みらない女は娼婦をしていた。
顔がばれるということが最も危険であるということはいやでも覚える。

彼女たちに職がありこれまで2人で生き抜くことができたのは、彼女たちの持っていた能力のおかげである。
いままで幾度となく危険にさらされたが、2人で力を合わせて乗り越えてきた。

シエルは窓から静かに降りた。いつもの緩い傾斜のかかった屋根。今まで通り、窓に屋根の上に立てかけてあった会所のグレーチングをかけ厳重に鍵をかけた。

下の階が騒がしい。これも懐かしい。
シエルたちは酒場の二階に住んでいた。夜は酒場に降りてタチの悪い客に酒を振舞う。

シエルは今の状況があまり理解できていなかった。
自分がなぜここにいるのか、これは現実なのか。
下に降りた際に全てが明らかになった。一階の大通り沿いにある酒場の窓から中を覗くと、黒いワンピースを着たシエルとシャインが忙しく酒を運んでいる。

これは悪い夢だ。


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あきゅろす。
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