白銀の狼
「痛い!痛い!」
幼いカレンの泣き声に、カレンはハッとした。血まみれの腕をだらんと下げて幼き自分が泣いている。しかしこの世界では今の自分は何もできないようだ。
カレンは割れた窓の外に目をやった。カレンの部屋は二階にあるため、家の前の道なら見渡すことができた。あの時見られなかった景色を見ることができる。家の中よりも外の方が絶望的であった。大量の見慣れない兵士が町を徘徊している。路上には血と死体が転がっていた。あちらこちらで悲鳴と、銃声、金属がぶつかる音が聞こえる。そして向こうの方では火が上がっているのが見える。
「この揺れはなんなの。」
昔から疑問に思っていたこの揺れの正体まではわからなかった。今まで起きてきた地揺れとは違う。あまりにも長い間大きく揺れている。
まさに絶望といえる状況であった。
(この時のわたしは何が起こったのか全くわかってなかったんだ。)
カレンは大泣きしている幼いカレンに目を向けた。
「おかーさん、おとーさん。」
幼い自分はもう会うことのない人物を求めている。
カレンはまた窓の外に目をやった。さっきよりも視界にはいる死体の数が増えた。
その瞬間、視界に新たなものが飛び込んでくる。白銀の髪。昔はあの髪が恐ろしい狼のようで苦手だった。しかしいまでは美しいと思う。アシェルだ。5年前のまだ髪が短いアシェル。短いナイフを逆手に持って兵士をなぎ倒しながらすごい速さでこちらに向かってくる。

その瞬間部屋の扉がゆっくりと開いた。
「おかーさん?助けて!」
幼いカレンは手をつかずに立ち上がって大きな揺れにふらつきながら扉に近づいた。
カレンはハッとしたこの瞬間をよく覚えている。期待に心躍り、そして世界のどん底まで落とされたこの瞬間。
幼いカレンが扉を開けた。その瞬間、
ガンッ
と痛々しい音がし、幼いカレンは吹き飛ばされた。
「動くな!」
目の前には大きな銃を構えた兵士がいた。思い切り頬を殴られた幼いカレンは床に転がった。
「なんだ女の子だけか。しかし一応」
兵士がポケットから小さな機械をだしてカレンにかざした。幼いカレンは絶望の表情で体を小さくして震えている。
兵士が持っている機械がピーピーと音を出した。
「なんだ!まさか!」
兵士がおろしていた銃を構えた。

(あの驚き様、あの機械。そうだきっとこのころから能力は宿っていたのね。)

「こんな女の子まで。すまない」
カチャリ
兵士が幼いカレンに銃口を向けた瞬間、

「ガッ!」
音も立てずに兵士がゆっくりと前に倒れた。
幼いカレンは震え、目を見開きながら兵士を避けた。そしてゆっくり扉に目を向けた。
そこには血まみれのナイフを持ち、そして全く返り血を浴びず血のように赤く狼のように冷えた目をした。
「「アシェル。」」
がそこにはいた。



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あきゅろす。
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