フェリーチェ
100年程前

「エテルナあなたは生きててたのしいですか。」
少年に気付く人間はいない程、気配を殺すのが得意だったはずである。こちらに背を向けて座っている青い髪の女性だけは彼の存在に即座に気がつく。
「あら、またばれちゃったか。」
黒髪の少年は女性に後ろから近づいた。女性は目を閉じてじっとしている。少年はその女性の目を後ろからそっと隠した。
「生きててたのしいよ。」
この広い部屋に響くのは二人の声だけ、ほかはなにもない。少年の足音も、女性の呼吸音も。
「エテルナ。ここに来るのは久しぶりですね。とても嬉しいです。あなたはとても綺麗な赤色をしてる。この青の世界にあなたが来たらすぐわかります。」
青い髪の女性は目隠しをされ前を向いたまま、ふふ。と微笑んだ。
「なんだよ。目見えないんじゃないの?」
エテルナと呼ばれた少年は呆れた顔で女性の後ろ姿を眺める。


また無の空間になったとき、少年は女性の目元からゆっくりと首筋に指を動かした。
(生きてる。)
首筋の脈打つそれから女性の“生”を感じると少年は急に真顔になった。
「あんたのほうが早いかもしれないよ。」
と女性の耳元で呟くと、伸びた爪でバリバリと女性の美しい首元をゆっくりと引き裂いた。真っ赤な血が床を濡らした。しかし女性は表情を変えない。
「これと僕の色がおなじだなんて、ははは。」
少年は真顔であるが、目の見えない彼女には笑っているように聞こえるのだろうか。少年は突然人を見下したように笑うと、
「どうせなら僕があんたを殺したかったなあー。」
どこか嬉しそうに大声で言った。

「ごめんねフェリーチェ。」
生きるのに飽きる前に死なせてあげられなくて。



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あきゅろす。
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