万全じゃないと相手にもならない

続々と食事を終え、大半が食堂から消えたあとである。
エージェントもすっと席をたったとき、
「エージェント。」
アシェルとまだ席に座っていたヴァンクールが声をかけた。
「なんか用?」
エージェントはそっけない返事で振りかえると小さく微笑む。
「今から少しだけ……。」
ヴァンクールが眉間にシワを寄せながらエージェントのほうへ歩いていく。

「ヴァンクール。今日はやめておけ。」
アシェルがヴァンクールを追った。
「その通りだよ。あんたは焦りすぎ。
今日は休んでよ。」
エージェントは呆れたようにヴァンクールにゆっくり近づいた。

「でも……なんか落ち着かないから……。
今日の話を聞いたら、いつセイカが来てもおかしくないような気がして。」
ヴァンクールは下を向いて低く唸る。
「はっきり言わせてもらうと僕が忙しいから明日にしてよ。」
エージェントが右手で前髪を掻き分け、左手をポケットに突っ込んだ。
「……。」
ヴァンクールがエージェントを困ったような表情で見つめる。
エージェントにもヴァンクールの言いたいことはわかる。
彼は不安なのだ。
戦ってないと、常に修行しないと……
いつ殺されるかわからないのだから。

エージェントも困ったようにフッと笑ったと思うと、アシェルたちの目の前から消えた。それとほとんど同時にヴァンクールが倒れる。
「こんな攻撃も見切れないくらいの状態で僕に戦うなんて……セイカと戦う前に、僕に殺されちゃうよ?」

突如聞こえた声にアシェルがはっと後ろを振り返ると、エージェントはいつもの人をバカにしたような目でヴァンクールを見ていた。
緊張の一汗がアシェルの頬を伝う。
(こいつは俺たちを殺すことなんてワケないんだ。)
『アシェル。今日は部屋に帰ろう。
今の体力、精神状態では彼と対等に戦えるわけがない。』
フレイルの冷静な言葉にアシェルはヴァンクールをおぶった。

「それでいいよ。
明日は楽しみだね。
ヴァンクールが死なないように、常にハンクとあんたに見ていてもらうつもりなんだ。」

最初は何を言っているのかよくわからなかった。しかし翌日、アシェルはその意味をよく理解することとなる。


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