黒い塔

アロンダイトが舞い上がってから、数時間でかなり小さかったカストレの黒い塔がもうすぐそこまで近づいてきた。

「大きいな……。」
アシェルは再度見るカストレの黒塔をみて、自分がかつて20年もこの場所にいたことに驚いていた。

『アシェル大丈夫?』
フレイルに優しく話しかけられてアシェルは
(あ、ああ。)
と小さくうなずいた。

やはり信じられない。
これのなかでアシェルは暮らしていたのだ。
(まるで檻だな。)
外から隔離されていて、国民のほとんどは外界を知らない。

「みんな降りるよ!」
ミンティアが大きな声をあげる。
その瞬間、ガクンっと機体が大きくゆれた。アロンダイトが下降し始めたのだろう。

それぞれが近くにある壁や柱で浮き始める体を支える。

「あのエレベーターからしか入れないんだな。」
いつの間にかアシェルの隣にいたヴァンクールが低い声で呟いた。

カストレを抜けたとき、アシェルはヴァンクールと大きなエレベーターに何時間か乗ったのだ。

カストレを抜けたのは、いっても数ヶ月前なのだが、とても昔のように感じる。
わずか数ヶ月で世界を見すぎたからだろうか。

その時だ、浮いていた胃が急にもとに戻る。
「きゃあ!」
ドンッと音がなったので、きっとシエルが転けたのだろう。
しかしほんとうにアロンダイトは速いのだ。
エレベーターでは数時間かかったこの高低差をわずか数分で切り抜けてしまった。

落ち着きを戻した機内で、
「みんな、カストレだよ。」
とミンティアが微笑んだ。

みんながぞろぞろと飛行船から降り始めるが、アシェルはなかなか動けない。
『アシェル。行くよ。』
フレイルが目の前で優しく微笑んだ。

フレイルだってカストレにはあまりいきたくないだろう。
バレンチアからも受け入れられず、カストレからも受け入れられない。
アシェルにもフレイルにも帰る場所はなかった。

それでも、今は……
(ああ。すぐにいく。)
アシェルは飛行船の入り口へ走った。

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