さようなら

トントン
静かにゆっくり扉をノックする。

「どうぞ。」
か細い声で返事が返ってきた。
「母さん。はいるね。」

ーーーー

さくらは泣き続けて腫れた瞼をこちらに向けて、黙っていた。
唇をぐっと噛みしめ、今にも何かいいたげな顔である。

「母さん…。」
ヒロはゆっくりさくらのベッドに近づくと、枕元にしゃがんだ。

「わかってるわ。」
さくらは目を伏せてヒロを見ないで口許を緩めた。
いいたいことはたくさんあるのだろう。
さっきからずっと唇が震えている。

「ありがとう。」
ヒロは小さく微笑むと、軋む体にムチを打ちゆっくりと立ち上がった。

「俺はすべてを知りたいんだ。
母さん、ごめんね。」
ヒロは入り口の方へと歩みを進める。
そのまま、扉のノブに手を掛けたそのとき、
「いってらっしゃい。」
震える声でさくらの精一杯の声がかすかに聞こえた。

ヒロは扉を開ける手を一瞬止めた。
「ありがとう。」
振り向くことはしないで、本当にさくらに聞こえているのかわからないほどの小さな声で呟くと、そのまま扉から出た。
「さようなら。」

ーーーーーーー

「ヒロー!」
シエルが大きく手を振った。
やっと、ヒロが病院から出てきたのである。
「みんなごめん。遅くなって。」
ヒロは無理矢理笑うと、シエルの頭にポンと手をおいた。
「ランスと軌跡は?…杏理も。」
周りを見渡してもランスと軌跡、それに杏理がいない。

「王子たちなら手配中!」
ランナがにこにこしながら近づいた。

「でも、そろそろいった方がいいかも知れないな。フェリーポートに来いって。」
アシェルがわずかに見える海の方を指さした。

「しゅっぱーつ!」
シエルの元気な掛け声で、六人は歩き出した。



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あきゅろす。
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