心刀、かすみ

「おい!」
勝手に口から大声が出ていた。

アルヴァはヒロを見て鼻で笑う。
「そうだ。これがお前の母親だ。」
そして刀をヒロへと向けた。

刀はどこか生々しい赤色である。
母親。かすみがあの刀。
すなわち、アルヴァと母親は昔に契約したということ。

ヒロは愕然とする。アルヴァと戦うということは、あの刀と刃を交えるということ。母親と戦うということ。

「寛人。」
不意に椿に名を呼ばれた。
絶望のどん底で何故か椿の言葉に期待した自分がいた。

「お母さんを殺したのは父さんじゃないよ。」
と一言呟く。

ヒロは顔をひきつった。
少なくとも椿はヒロの方へつく気はない。
そして、アルヴァの邪魔をするのは許せない。

もうどうすればいいのかわからない。
ヒロの大切な人を傷つけていったのは、アルヴァだ。

しかし、あの刀は母親。

「おい、ラグナ。」
ヒロはアルヴァの声にハッと顔をあげた。
アルヴァは悲しそうな顔をしている。

(なんでお前がそんな顔をしているんだ。)

「言っておくが、今はお前の選択を決める場ではないんだ。
お前が私を殺そうが殺さまいが、そんなことは知らん。
お前たちが敵なのは確かなんだ。
私たちは王の命令でここへ来た。
ヴァンクールを殺害するためにここへ来た。

そして私は正直、お前を殺すことに何も感じない。」

ヒロは眉間にシワをよせると、刀に手を添えた。
(そう。アルヴァは前から俺を殺すことに抵抗はなかった。)

「かすみ。お前の命をかけて守った大事な息子を斬らせてもらう。
これが、私を裏切ったお前への罰だ。」

アルヴァは大声で叫ぶと赤い刀を構えた。

その瞬間
ーアルヴァは母さんを愛していたのか?
それなら母さんはなぜ他の男と…

ふとした疑問が頭の中を過る。
この疑問の答えがわかるときは来るのだろうか。

「ヒロ。刀抜かないと死ぬよ。」
後ろからの椿の声にハッとする。

(そうだ。何を迷っているんだ。)


ヒロは一度息を静かに吐いて、呼吸を整えると思い切り刀を抜く。

(アルヴァは敵なんだ。)
紫色の刀身が煌めいた。




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