決意の一歩

「母さん。」
ヒロは手を握ったまま、静かに母親に微笑みかける。

その時、ヒロはハッとしたような顔をすると、
「怪我は?」
慌てたように目を丸くして、母親の顔を覗きこんだ。

母親はにっこり笑うと、
「大丈夫。
元々、そんなたいした怪我じゃないのよ。」
昔から変わらない優しい口調。
自然と周りの空気まで優しくしてしまう。

ーーーー

『誰にやられたのか』そんなことは聞かなかった。

…騎士だ。

結局俺の敵はアルヴァ、騎士なんだ。

正直、ランスのことはどうすればいいかわからない。
カストレ騎士団を敵とすれば、カストレの王子であるランスとは自然と敵対することになる。

ランスは俺が「アルヴァを許さない。」といえばどうするんだろう。

…そしたら、姉さんはどうするんだろう。


ーーーー

「寛人。」
不意に厳しい口調で呼ばれた。
椿がこちらを見下ろしている。ヒロは涙に濡れた頬を拭うと、先ほどと表情をガラリと変える。

「なんだよ。」
それと同時に椿がヒロの腕を引いてたたせた。

「父さんが呼んでる。」
ヒロは胸をなにか鋭いものが貫いたような気がした。

今回、カストレに来たのはアルヴァと話すために来たようなものだ。

しかし、いざその時が来ると思うと足にうまく力がはいらないのだ。

ー騎士3番という壁

あまりにも高すぎる。

「寛人。行っちゃだめよ!
椿ちゃんもやめて。」
母親の声。ヒロはその声に気をとられる。

「寛人。」
その後また椿に名を呼ばれた。先ほどよりも強い口調だ。

「お前はなんのために、ここにいるんだ。
…全てを確かめなさい。」
椿の一言にヒロは足に力をいれた。そして母親に背を向ける。

「母さん、後でまた来るよ。」
心配そうに、今にも泣き出しそうな表情の母親を背に、ヒロは椿より先に病室を後にした。

ーーーー

「ヒロくん?」
病室を出たところに、杏理とシエルそしてランナが座っていた。

「ちょっと行ってくるよ。
また後で。
母さんと話してあげて。」
「ヒロ!」
シエルが呼び止めるが、
「ついてくるなよ。」
強い口調でいうと、
その後またいつものようにヒロは眉をハの字にしながら困ったように笑うと、椿と共に3人の前を通りすぎる。

「ヒロくん…!」


病院は非常に静かだった。


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あきゅろす。
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