母親の愛情


先ほどのふざけた騎士から逃げるため、走る杏理の後を追う。

的確に廊下を曲がることから、母親の病室に向かっていることは間違いない。

俺はどんな顔をして母さんに会えばいいのだろう。

自分では本当の母親のように思っていても、きっと俺自身が急に母さんの生活の中に割り込んで、良くも悪くもかなりの変化を及ぼしたにちがいない。

ー母さんは俺をどう思っているんだろう。

血も繋がってない俺のために重傷を負わされた。

急に会うのが怖くなってくる。

(俺はどんな顔をして母さんに会えばいいのだろう。)

「ヒロくん。」
杏理の声に我に帰る。

目の前には、先に何があるか全くわからないように無表情の冷たく重く見える扉があった。

俺は目を細め、息を吐いてから冷たい扉に手をかける。

ーーーー

「か、母さん。」

ヒロは眉をおとし、恐る恐る病室に足を伸ばした。

目の前には同じ茶髪の女性がベッドの上に横たわっている。

しかし、視線を少しずらしベッドサイドを見れば、
ヒロと同じ目をした女性が座っていた。

「寛人。今さくらさん寝てるよ。」
さくらさんとは母親のことだ。

ヒロは自然と身構えていた。
そしてシエルとランナ、そして杏理に目配せする。
『外にいろ。』
と。

そう。ランナと椿は契約していて、すでに一週間経っていた。

「こんなところで戦わないわよ。
今刀なんか持ってないし。」
椿は目を細めてヒロを睨み付ける。
その紫の瞳にヒロは視線を奪われた。
この目は本当に自分にもあるのか、と思うほどに美しい。
窓から差し込む太陽の光がその瞳に吸い込まれ、青い光をまとっている。

「なんで姉さんがここにいるんだ。」
ヒロはその瞳から目を離すと、シエルとランナ、杏理に近づいた。

「さっきの騎士が来たら、3人で入ってこい。」
「わかった。」
杏理はにっこりと微笑む。

ヒロはその微笑み安心すると、ゆっくりと扉を閉めた。
そして、椿の方を見る。

「もちろん。父さんが来たから。」

この答えを予期していた。していたはずなのに、やはり肩が一瞬あがる。

アルヴァ。
騎士の三番だ。

「寛人。」
その時、優しい声にヒロの重くなった体が綿になったように軽くなったのを感じた。

声のした方に目を合わせる。
母親の青い美しい瞳がこちらに向いていた。

「母さん。」
ヒロはベッドにすぐに駆け寄る。

「お帰り。」
その瞬間。先ほどまで考えていたモヤモヤしたものが一瞬で吹き飛んだ。

向けられた眼差し、優しい声色。ヒロへの愛に溢れている。

「ただいま。」

ぽろぽろと涙を溢しながら、母親の愛を肌で感じるように、小さな手を握りしめた。



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