国民と国王

「ムーちゃんの声だね。」
ムーちゃんとはヴァンクールの愛猫である。
いつもヴァンクールの帰りを飛行船内で待っているという賢い猫だ。

シエルはパタパタと廊下へと向かう。
「ヒロの部屋だよ!」
その声を聞いて、ヒロはシエルの元へ向かった。

ヒロのベッドの上にはちょこんとムーが座っている。
ムーがなぜ鳴いていたのかは、ヒロが一歩部屋に入った時にわかった。
ブーブーとサイドテーブルの上にありヒロの携帯が鳴っている。
「わざわざ知らせてくれたの?」
シエルは目を丸くしながらムーに近寄る。
シエルがそのまま喉を撫でてやると、ムーは気持ちよさそうに喉をゴロゴロならして、シエルに甘えた。

ヒロは机の上で激しく音をたてる携帯をとり、画面を開いた。

「ランス。」
ヒロは静かに呟くと、すぐに電話にでる。

ーーーー

「もしもし。」
「あー。俺だランス。」
俺はソルフレア以来、久しぶりに友人ランスの声を聞いた。

「どうしたんだ。」
ランスが電話をしてくるなんて相当のことだ。

正直、俺とランスの立場。敵どうしということで、周りの人間からは交流は禁止されているだろう。
とすれば、
俺はあまりよくないことを想像した。

「実は父さん。」

「えっ?」
ランスの低い声に正直俺は自分の想像していることが当たってしまったと内心ドキッとした。

すると、
「はは。違う。きっとヒロの想像していることとは。
父さんは死んでないよ。」
ランスが電話の向こうで小さく笑った。
しかし声色は相変わらず穏やかではない。

「父さん、そろそろやばくてね。」
ランスの父、ソード王の病気は重いとソルフレアで出会った時に聞いていたが、こんなに早く、病気が進むなんて。
「怪我なら簡単に治せるけど、病気はむりなんだ。」
「ああ。」

俺はシエルと目を合わす。

するとシエルは真顔のままうなずいて、ムーを抱いて出ていった。

「次の国王は俺だ。」
「ああ。」
それは当たり前だ。
今の国王が父親なのだから、息子のランスは次期国王。

「寛人。」
不意にあだ名以外で名前を呼ばれ、俺の手は震えた。
(この名でランスに呼ばれるの。久しぶりだ。)
ランスがこの名前で俺を呼ぶのは、熱くなった時か、冷静な時。

「でもな。
俺には子供も妻もいない。
そして、俺の知っている血縁者はもう死んだ。
その場合、次は誰だと思う?」
ランスが低い声で言った。

「えっ?」
あまりの低い声に何も言えない。
「実は俺たちは、神聖な王族でもなんでもないんだ。」

俺はゆっくりとベッドに腰をおろした。
「嘘だろ。」
国王には代々、王族がなっていく者。
「まさか。」

「王族は昔戦争で全滅したんだ。
その時、父さんは騎士の一番だった。」
その一言で、俺の体は凍りついた。

「なんにもしらない国民にとって。
王が国をまとめてくれさえすれば、国王なんかだれでもよかったんだ。」

ランスは小さく呟く。

「セイカはもしかしたら俺を殺して国王になるのかもしれない。
とっとと騎士をやめてもらいたいけど、そんなことをすればカストレがどうなるのかわからない。」

再び絶望が俺を襲った。


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あきゅろす。
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