月と黒煙

その瞬間、ヴァンクールが思い切りジャンプした。

そして、アシェルはあの神秘的な姿を再度目にする。

ヴァンクールの背中から真っ赤な翼がはえて、そして空を飛んだのだった。

あの時のようにヴァンクールが羽ばたく度に、真っ赤な熱風が屋上へ容赦なく降り注ぎ、屋上はたちまち火の海と化す。

ヴァンクールはすごい速さで翼を動かすと、そのままヘリコプターへ向かってきた。
『ヴァンはきっと疲れて止まれないよ。』
フレイルが大きな声で言うので、アシェルは一応月の力を発動しつつ手を広げて勢いよく飛び込んで来たヴァンクールを受け止めた。

「ありがとう。」
ヴァンクールは息を荒くしながらアシェルの顔を見ないで呟く。
いつも通りの反応だ。

「あっ!」
アシェルはヘリコプターの上から屋上に目をやる。


屋上の炎の海の中に、腕を組んでこちらを見上げているゴーストがいた。

その瞬間、
「アシェル!」
ヴァンクールが叫んだと同時にアシェルもハッとした。

大量の黒煙のが先ほどより速くヘリコプターめがけて飛んで来たのだ。
その黒煙の様子は、34階で見たファルクスカンパニーを串刺しにするほどの威力を持った"レーザー"によく似た形。

『ゴーストはヘリコプターを破壊する気だ!』
フレイルが叫んだと同時に咄嗟にアシェルは両掌をヘリコプターの開いた入り口から外へつきだした。

そう、掌には月の力を纏って。

まだゴーストの黒煙が能力だという確信はなかった。
(いちかばちか!)

アシェルは目をいっぱいに広げて、レーザーを手に受けた。


パンッ

なにか弾けるような音を立ててレーザーはアシェルのちょうど掌で消えてなくなる。
すなわち、ゴーストの黒煙は能力によるものだということ。

その様子を見てヴァンクールもフレイルもそっと胸を撫で下ろした。


アシェルが黒煙を全て消した後、ゴーストはアシェルたちに背を向けて、ヴァンクールの放った炎の中へと消えていった。

ーーーー

ヘリコプターはファルクスカンパニーから離れた上空を飛んでいた。

「お疲れ。」
運転席からのキセキの声に、一段落ついたアシェルが振り返ると、ヴァンクールがぐったりと椅子に腰かけている。
「大丈夫か?ヴァンクール。」
アシェルがヴァンクールに呼び掛けると、

「あいつとはこれから先、何回も会いそうな気がする。」
ヴァンクールはぼろぼろの服で顔を拭きながら呟いた。

「それはやだな。」
アシェルは眉間にシワを寄せて、ヴァンクールの向かいの座席に腰をおろす。

「って!すごいぞ背中!」
ヴァンクールがちょっと動いただけで、背もたれが血だらけになっている。
「ああ。でも死ぬ程じゃあない。」
ヴァンクールは優しく微笑んだ。

「でもなんで俺を殺さなかっただろう。」
ヴァンクールは目を伏せて呟く。

すると、運転席の方から、
「それはゴーストがセイカの仲間だからだ。」
サギリの強い声がヴァンクールの耳を貫いた。

正直ヴァンクールには一番辛い真実だ。
自分よりも強い者が2人もいて、しかも仲間だという。
「ティアラという女が、ゴーストを作り出したようだ。」
その言葉にヴァンクールは下を向いた。

「ティアラさん…。」
以前は助けてくれた。しかし、セイカの手下。

ヴァンクールにとって、とても重たい言葉だった。



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あきゅろす。
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