何も効かない

「急げ!」
アシェルが少し後ろのキセキに向かって叫んだ。

理由は、腕のなくなったゴーストが追いかけて来ているわけではない。
しかし、キセキのすぐ後ろは真っ黒だ。

ゴーストの代わりに黒煙が後を追って来ている。

「2人とも。この穴から上に上がるぞ!」
ヴァンクールが立ち止まって後ろを振り返り叫んだ。
アシェルとキセキが勢いよく47階へと続く穴に飛んだ瞬間、ヴァンクールは黒煙に向かって、
ボンッ
と、掌からものすごい爆炎を放った。
爆風で黒煙を撒ければ最高なのだが。

そのまま、黒煙がどうなったかなど確認せずにヴァンクールも穴へ上がる。

しかしその瞬間、
「っ!」
ヴァンクールの背中を激痛が襲った。

ヴァンクールは敵の強さを傷から計ってしまう癖があるので、やはり傷口を見ずに47階の周辺を見回す。


「ヴァンクール!サギリねえさんだ!
このまま屋上までいく!」
一つ上の階からキセキの声が響いた。

それと同時に、一度まばたきをした程の時間だろうか。
ヴァンクールの目の前にゴーストが立っていた。

ヴァンクールは眉間にシワを寄せて、素早く上の階へと飛び上がる。

48階、49階、50階とトップスピードでのぼり、とうとう51階、すなわち屋上へとたどり着いた。

暗かった内部とは対照的に空は真っ青。
雲一つない代わりに、以前より近くに多くの飛行船が空に浮かんでいた。

以前なら、その風景は平和そのもの。
じっと見つめたい程であるが、今はそんな悠長なことは言ってられない。


かなり広い屋上の一番端に、ヴァンクールの位置からは小さくしか見えないが一台のヘリコプターが止まっていた。
その入り口には、アシェルが手招きしている。

ヴァンクールが転けそうになりながらかなり急いでヘリコプターへと走る。
それと同時に、

ドカンッ

という音を立てて、34階から屋上へと続く大きな穴から爆発音が聞こえた。
大きな穴を広げるほど大量に、かつ勢いよく出てきたのは大量の禍々しい黒煙…。

ヴァンクールは全力で走る。
ヘリコプターもヴァンクールを迎え入れて、すぐに出発出来るように機体を浮かせていた。

しかし、黒煙のスピードがヴァンクールを少し上まわっていた。
すなわち、とんでもないスピードである。

ヴァンクールとヘリコプターとの距離は20メートル程に、そして黒煙とヴァンクールとの距離が5メートル程になった瞬間、ヴァンクールが
「飛べ!」
と大声を上げた。

操縦しているキセキはそのすぐあとに、ヴァンクールを信じて機体を上空へとあげる。

それと同時に黒煙の中から、ゴーストが勢いよくヴァンクールを殺そうと腕を上げて飛び出してきたのだった。

「ヴァンクール!」
アシェルは叫んだ。


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