再度、46階へ

「サギリねえさんは無事だ…。」
キセキの一言に、ヴァンクールはフーとため息をついた。

相変わらず、非常階段の中は暗くてかつ、吹き上げてくるのは蒸し暑い空気のみである。
やはり窓が一枚もないからであろう。

「でもな。」
キセキの念を押した声色に蒸し暑い空気の流れが止まる。
「ゴーストが一瞬でサギリねえさんを見つけたということは…、」
そう言いながらキセキは立ち上がった。

「…ゴーストは俺たちの場所を把握している。」
アシェルはヴァンクールに立つように合図して自らも立ち上がる。

「サギリねえさんを迎えに行こう。
ゴーストが見ていた風景、俺たちはまだ行ってない。47階以降なんだろう。
46階くらいまで一気に行くぞ。」
「わかった」
アシェルは階段の手すりに手をかけると、一気に階段をかけ上がった。

ーーーー

階段を登りながら、キセキは片目を閉じる。
それに気づいた隣を走っているヴァンクールは目を丸くした。
「器用だな。」

「まだ大丈夫…」
キセキは走りながら時折ゴーストの視界を見ていた。
それは、キセキ自身の視界は見ていないということ。言い換えれば、目を瞑って走っていることになる。


「おい、46階だ。」
アシェルが非常階段のわずかに光のともっている46という数字を指さした。

「出るぞ。」
ヴァンクールが扉に手をかけ、すでに鍵は外れているドアノブをひねった。

その時
「ヴァンクール待て!」
キセキの大きな声が響く。
「っ!」
時すでに遅し。
少し開いた扉の隙間から飛び出して来たのは真っ黒の爪の長い大きな手。

その凶器にもなりうる大きな掌はヴァンクールの首を掴んだ。

「ヴァンクール!」

扉は完全に開き、ヴァンクールの軽い身体は宙に浮く。
「んっー…!」

「させるか!」
狭い階段の踊り場でそう叫んだのは大弓を構えたキセキだった。

アシェルも同時に心刀フレイルを出していたが、リーチの短いフレイルではあの黒煙を纏った身体にぶつかっていくのはつらい。

パンッ

キセキの放った矢は、一瞬でゴーストの脳天を貫いた。

「どうだっ!」
ゴーストは少し後ろによろめき、ヴァンクールを絞め殺そうとして手の力が少しだけ緩んだ。

ヴァンクールはその一瞬を逃さず、すかさず息を吸い肺に空気を送り込んでから、右手の関節をボキボキとならしながらそのまま素早く振り上げる。
ヴァンクールの右手は黄色に近い橙色の炎を纏って素早く降り下ろされた。

見えないほど速く降り下ろされた手は見事にゴーストの黒い腕に当たり、それだけではない。

バキッ

耳を塞ぎたくなるような痛々しい音をたてて、ヴァンクールの首を掴んでいたゴーストの筋肉質の腕が空を舞ったのだった。

「ゴホッゴホッ!
今のうちだ!」
ヴァンクールは咳をしながら叫ぶと、膝をついてゴーストの股の間をくぐって走り出す。

アシェルとキセキもゴーストの横を素早く走り抜けた。



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あきゅろす。
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