Ghostー始動

「なんだ?」

暗闇に低く響いた謎の破裂音を聞いて、キセキは勢いよく重たい扉を開ききった。

キセキとアシェルは今まで謎に包まれていた34階に足を踏み入れ辺りを見回す。

正直、回りの異様な光景に一度は唾を飲んだが、今はそれどころではない。
先ほどの銃声が"最悪の状態"を生み出しているのかもしれないのだ。

キセキが目の前の金属の柵から身を乗り出し、出来るだけ下の暗闇を覗き込んだ。

アシェルも下を覗こうとした瞬間、


「ヴァンクール!
逃げろ!」

キセキが全力で叫んだのだ。
その叫びは今まさに"最悪の状態"が起ころうとしていることを示唆しているのだった。

ーーーー

顔中を血で真っ赤にして虚ろな顔をしていたヴァンクールはいきなり聞こえたキセキの声にハッとした。

声の主を見上げると、キセキがいてもたってもいられない、というような表情をしている。

ヴァンクールが上に上がろうとし、柵に足をかけた瞬間、

ガシッ

何かに足を捕まれ、ヴァンクールはバランスを崩し柵から身を投げ出してしまった。
しかし、足は何者かに握られているので宙吊りの状態である。

「っ!嘘だろ…」
こんなことするやつは、死んでいようとあいつしかいない。

ヴァンクールが体をねじ曲げて、足を掴む何者かを見上げると、
「ぅあ!」
ヴァンクールは久しぶりに本気で驚いたような気がした。

ヴァンクールの足をつかんでいる"それ"は
顔が人間ではない。
顔は骸骨そのものであった。
しかし、足をつかんでいる手の柔らかさは人間と同じように感じる。

正直、これがサラバなのかどうかもわからなかったが、目の前の柵越しに見える革靴がサラバと同じもの。

ヴァンクールには、なぜサラバが動いているのか…
頭が追い付いていない。
しかし、この状況がどういうヤバさなのかはなんとなくわかっていた。

ー逃げろ!

キセキにも言われたが、今までの経験がヴァンクールの頭に何度も呼び掛けている。

(逃げないと…
やられる!)

ヴァンクールは握られている足に神経を集中させた。
その瞬間、ヴァンクールの足に赤い炎が
ボンッ
と火柱をあげた。


普通の人間なら手を離してしまう、以前に手はなくなってしまうだろう。
しかし、サラバはこの両の法則を完全に無視して未だにヴァンクールの足を握っている。

そして、そのまま握る手の力をだんだん強めてきた。「んっ!」
あまりの握力に骨が折れてしまうのではないか、さすがのヴァンクールでもそう考えてしまった。

ーーーー

「ヴァンクール!」
アシェルはヴァンクールの太陽の炎を見て柵から身を乗り出した。

「くそっ!」
その時、キセキの焦りの声と共にアシェルの視界の端が眩く光る。

アシェルが目を移すと、そこには自分の体ほどある大弓を真剣な顔で構えたキセキの姿があった。

(これがキセキの心刀…)

一瞬の光と一瞬の風切り音と共に矢が放たれた。


ーーーー

ギュンッ
と風を切る音が聞こえ、同時に
パッと
足を掴んでいた手が急に緩くなった。
急に離されたものだから、ヴァンクールはそのまま落ちそうになったが、
ギリギリのところ、柵の根元を掴む。

その時、何が起こったのかサラバを一瞬見上げると、人間と同じサラバの腕にぽっかりと直径2センチほどの穴があいている。

それを確認したあとすぐに、ヴァンクールは身軽な体を猿のようにして上の柵へ柵へとだんだんと入り口目指して上がっていった。


ーーーー

「サンキュー!」
ヴァンクールが息を荒くして、アシェルとキセキの元へとたどり着いた。

「なんなんだ。サラバは…」
ヴァンクールが2人に問いかけた瞬間、

「そんなんあとだ!
逃げるぞ!」
アシェルが大声をあげた。



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あきゅろす。
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