気力

「よし!」
アシェルは数メートル上の飛行船から無事にアストラシア飛行場へと着地した。

視界にはやたらだだっ広い飛行場が広がっていて、平坦な地が続くために、青い空が近く感じる。

「行こうか。」
アシェルは他の3人に呟いた。

(きっともうサラバには見つかってるんだろうな。)
ヴァンクールはこんなことを考えながらゆっくりと足を踏み出した。

ーーーー


アストラシア


アストラシアはあまり高い建物はなく、白い一軒家がつらつらと並んでいた。

「サラバに普通に会いに行くのか?」
ヴァンクールはサギリに問いかけた。

サギリはうんっと首を傾けると
「そう、だな…。」
と笑ってから、遠方にそびえているアストラシアで唯一、何十階もある建物。そしてアストラシアの象徴ともいえる、『ファルクスカンパニー』を見上げた。

ファルクスカンパニーは周りの白の建物とは違って灰色の高層ビルであるから、アストラシアではかなり目立っている。

「サギリさん。
俺はついていけません。
もしも、全員が捕えられたりすれば大変ですから。」
不意にファルクスカンパニーを心配そうに見上げているサギリに軌跡が呟いた。

「わかった、じゃあ俺とサギリが直接行くよ。」
ヴァンクールが軌跡の言葉に続ける。

「わかった。じゃあ俺の目を見て、」
軌跡がヴァンクールの手首を掴んだ。

ヴァンクールは一度目を丸くしてから、安心したような顔になって軌跡の、眼帯をしていない方の瞳をじっと見つめる。

「オーケー。アシェルと俺は、何かあったら乗り込むよ!」
もう用は済んだのか、軌跡はうんうんとうなずいてから、眼帯にそっと触れた。

「じゃあ、俺たちはファルクスカンパニーに向かう?」
ヴァンクールはサギリの隣に移動する。

サギリは腕を構えてうなずいた。
『ちょっと待って!』
「ちょっと待て!」
フレイルが不意に叫んだので、アシェルも叫んだ。

『ヴァンクールのおでこにくっつけて。』
アシェルはフレイルの言葉の通りに、ヴァンクールの額に自らの額をくっつけた。

『大丈夫だ。
エヴァはやっぱり当分目は覚めない。
今、サギリと2人きりにしても心配ないよ。』
(そうか。)
『っていうか、エヴァが目覚めようという気力が乏しいんだよ。』
(もしかしたら、心刀の期間の一週間たつまで出てこない気じゃないのか?)
アシェルの言葉にフレイルは首を傾けた。

「ヴァンクール。行ってこい。」
アシェルはヴァンクールの背中を押すと、ヴァンクールは振り向いて

「わかった。じゃあな。」

ヴァンクールとサギリはアシェルと軌跡に背を向けると、ファルクスカンパニーへと足を進めた。


(エヴァ自身、目覚める気がない…。)
エヴァがヴァンクールの中にいることをセイカが知っているのかどうかも今はわからない。

セイカの思った通りに事が進んでいる…?

考えたくもなかった。

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