ラインのナイフ

ドオンッ

コロシアム内には先ほどと同じような音が轟いた。

ヴァンクールの投げた苦無から発した炎は、サギリの技よりも高さがあった。
それだけ、ヴァンクールの魔力が高いということだ。

「何が起こっているのでしょうか!
煙がすごくて中が全く見えません。」
審判が周りの歓声に負けないくらいの大声をだす。

煙もバリアのせいでリング上をすっぽりと覆っていた。

その時、モニターに映る映像はいまだに真っ黒だが、
キンッキンッ
と刃が触れあう独特の音を拾ってコロシアム内に響いた。
「まさか!
この中で暑い戦いが繰り広げられているのでしょうか!?」

中で戦いが起こっているのは確かなようだ。

何がなんだかわからないまま、次第に煙が晴れてきている。

ぼやぼやと中の様子が確認できるまでになってきた。

ヴァンクールとサギリは激しい短刀同士の戦いを繰り広げている。
「降参しろよ!」

ヴァンクールは誰が見ても本気を出していない。

サギリが全く降参しようとしないのだろう。

「せっかく、ケガしないようにって、やってんのに…」
アシェルが口をむっとさせて呟いた。

ヴァンクールは短刀を交えながら、
(もう終わらせる。)
『うん。なるべく…』
(わかってる)
マリが全て言い終わる前にヴァンクールはキッとサギリを睨み付ける。

ヴァンクールは短刀をサギリの短刀と競り合うようにした。
ギチギチと金属のすれあう音。
サギリはこの競り合いで腕を折られたから、素早くヴァンクールから離れようとする。

その足に集中し、力を入れた一瞬のうちにスピードで上回っているヴァンクールはその足に回し蹴りを仕掛けた。

「きゃ!」
やはり全体重を足にかけているだけあって、気づけばジャンプで避けられる足払いで、後ろにバランスを崩してしまった。

その瞬間、ヴァンクールは持っていた短刀を「ガチャン」と落として、サギリの首を左手で掴んで、地面に叩きつける。

「うっ!」
派手に頭をぶつけ、サギリはうめき声をあげる。

ヴァンクールは動かないようにサギリの上に乗っかって、やはり左手は首もと、右手は左手首を掴んでいた。

「サギリ。降参しろ」
はっきりいってサギリは怪我まみれで、とても戦えるような状態ではなかった。

しかしサギリは唇を噛んでふるふると首を振るだけだった。
「あんたがこのまま降参しないなら、左手を吹っ飛ばす。」
ヴァンクールの左手を握る手が強められる。


するとサギリがやっと口を開いた。
「そのナイフをよく見せてくれれば…」

ヴァンクールは意外な一言に目を丸くするが、
「うん。もちろん。」

サギリは目を瞑った。
そして、
「私の負けだ。」


「おぉっと!どうしたのか!あのナイフになにがあるのか!
しかし、ヴァンクールの勝利です!決勝進出です!」
すこしおどおどしながら審判が叫んだ後、どっと歓声が巻き起こった。

ヴァンクールはサギリの上から起き上がり、サギリに手を差し伸べる。
サギリは少し戸惑いながらもその手をしっかり握った。

それから
「はい。」
ナイフをサギリに渡すと、サギリはナイフをまじまじと見つめてから、目を閉じナイフを額に当てた。

ヴァンクールはそれをどこか嬉しそうに見つめていた。

「あっ…」
閉じた瞳から涙がこぼれたのだ。
「うぅっ…」
サギリはナイフを握って泣いている。
それを見てヴァンクールはとても辛くなった。

(俺が人を殺せば…)


「ねぇ。サギリ。
それあげる。」
ヴァンクールが急にポツリと独り言のように呟く。


「えっ?ヴァンクール!?」
しかしヴァンクールはそのまま出口へ走っていった。

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