業火vs稲妻

「わかった…。
見せてやるよ」

ヴァンクールは語尾を強めて視線をサギリにむけた。

モニターを通して見て、ナイフを持つ手が強まったのがわかる。

サギリも左手をヴァンクールに向けたまま、ヴァンクールのナイフをじっと見つめていた。

「ハァッ!」
ヴァンクールが急に叫んだと思うと、ヴァンクールのナイフを持った右腕は、音もなく赤みがかった黄色い業火に包まれている。

「アシェル〜。」
シエルが今まで見たことないヴァンクールの炎をみて、アシェルの腕を掴んだ。

「うん。」
ヒロもランナも目を細めている。
みんな、頭の中に"危険"を示す赤信号が灯っていた。

それほど、禍々しいオレンジ色だった。


しかし左手を上げたままサギリはその炎を見て、視線を強めるだけだった。
怖がった様子は全くと言っていいほどなく、むしろヴァンクールを倒す。という強い意志に満ちていた。

「その炎が、太陽の炎…」
サギリは左手を一度縦に振る。
すると、どこから出したのか…手には3本の苦無がしっかりと握られていた。

サギリはその苦無が握られた左手を顔の方へと近づけて、そのままヴァンクールの足元むけて投げつける。

ヴァンクールは足元に投げつけられた苦無を一歩下がってよけた。
苦無は「カッカッカッ」と音をたてて、順番にリングに刺さって…
3本目が刺さった瞬間、
「っ!」
「ドオンッ!」
とてつもない轟音と共にヴァンクールの視界が真っ白になった。

観客たちがかなりざわつく。
先ほどの轟音の正体は、サギリの刺した苦無からコロシアムの3階席くらいの高さまでの、激しい雷撃からだった。

普通に食らっていたならば、即死級の攻撃だっただろう。

しかしいまだにリングは先ほどの雷撃で焦げたリングの煙でよく見えない。
ヴァンクールがどうなったのか、観客のほとんど全員がわからなかった。

やがて、ゆっくりと煙が晴れて一筋の光が見える。
「ヴァン!」
その光の正体がヴァンクールの炎であることを確信するにはさほど時間はかからなかった。


ヴァンクールはリングの隅で両手で頭を隠して立っていた。

無事であることに、全員がほっとしたが、どうみてもヴァンクールの両腕が焦げている。
それが、先ほどのサギリの攻撃でなのか、ヴァンクールのいまだに右手に纏った炎のせいなのかは、わからなかった。


サギリはというと、全く動かないヴァンクールを睨みながら、低く構えている。

「おい!
こんな一撃でくたばるわけないだろう!」
サギリが大声で怒鳴った瞬間

ヴァンクールは重ねた両腕を左右に素早く広げた。
左右どちらともにも炎が燃えていた。
そしてモニターに写し出されたヴァンクールの表情は…


恐ろしいほど暗かった。


サギリはゴクリと生唾を飲んだ。

「すごくびっくりした。
太陽の力を使ってなかったら、俺は死んでたかもしれない。」
ヴァンクールはつらつらと技の感想をのべながら、左右の燃え盛る腕を後ろに引く。

サギリは警戒して左手をヴァンクールに向けた。

その瞬間、ヴァンクールは一気に引いた腕を前に交差させる。
両腕についた炎は大きな刃となって地面と水平にサギリを狙った。
その刃はシエルの鎌鼬に似ている。


サギリはまっすぐに飛んできた炎の鎌鼬をしゃがんで避けようとしていたが、
ヴァンクールの左手に先ほど投げた3本の苦無があるのが見えた。

ヴァンクールは炎の鎌鼬がサギリに当たる前に苦無を投げる。
苦無は「カッカッカッ」と地面に刺さっていった。

(私と同じ…
まさか!)


サギリの目の前が真っ赤に染まった。



[*前へ][次へ#]

27/63ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!