鷺の力
リングに立ってまずヴァンクールは観客席を見回した。
(あっ…)
「ヴァンー!」
シエルは大きく手を振っている。
「ヴァンクール頑張れよー!」
…
みんなが一斉に無言でアシェルを見た。
「なんだよ。」
「いや、アシェルの大声初めて聞いたような…」
ランナが苦笑いで横目で見る。
「でも〜見て。」
シエルが指をさした。
「ヴァン嬉しそうー」
ヴァンクールはこっちをみて、困った顔で顔を赤くしている。
「いや、シエルが一番嬉しそう。」
ヒロがものすごい笑顔でシエルを見た。
「えぁっ!」
シエルが焦ってにやけている口を元に戻そうとさわる。
ヴァンクールがその様子を見て微笑んで見ていると、
「あの〜。よろしいでしょうか…」
となぜかおどおどしながら審判が話しかけてきた。
ヴァンクールは慌てて右手を挙げる。
ぱっと見るとサギリは腰に手を当てて、すらりと立って待っていた。
「それでは準決勝第一試合サギリ対ヴァンクール。
はじめ!」
ヴァンクールはいつものような緊迫した雰囲気ではなく、どこか力の抜けていて…リラックスできているようだった。
それに対してサギリは足を肩幅より広げて、低い姿勢でかなり警戒している様子。
ヴァンクールはゆっくり片方だけ足を一歩下げて、ズボンの裾からいつものナイフを取り出す。
それを見てサギリは腰につけた小さな刃物に手をかけ、一瞬のうちに例の『十字手裏剣』を組み立て、顔の前に構える。
ヴァンクールもサギリの戦う意志を見て、ナイフを腰の横に構えゆっくりと腰を低くした。
「ヴァンクール。心刀はださないのか…」
アシェルは試合の様子を映した大きなモニターを見ながら、目を細めて呟く。
それをいい終えた瞬間、サギリは右手に持った十字手裏剣を投げつけてきた。
ヴァンクールは顔色一つ変えずに、真直線に飛んできた手裏剣を「ベタン」と地に伏せて避けて、真上を通った手裏剣をナイフで下から弾き飛ばす。
そのままサギリの元へ、ナイフを構えながら猛突進する。
サギリは一本の苦無を取りだし、ヴァンクールに向けた。
サギリはヴァンクールのナイフを正面で受け止める気のようだ。
モニターにはチラチラとヴァンクールの表情がうかがえるが、本当にただの真顔で何を考えているかわからない。
そして、
ガキンッ
2本の刃物がぶつかり合う音。
その一瞬後に、ヴァンクールは空いた左手でズボンのベルトからハンドガンを取りだし、サギリの額目掛けて、
パンッ
と発砲した。
サギリはそれをすれすれのところで右に避ける。
そのままサギリも空いた左手で苦無を飛ばしてきた。
しかしそれもヴァンクールはハンドガンを持った左手を思い切り下から振り上げると、
カキンッ
と音をたてて、放たれた苦無は回転しながら、上空に弾き飛ばされた。
モニターでその様子を見た観客だったが、だいたいの素人が正直速すぎて、何が起こったのかよくわからなかった。
ヴァンクールは競り合いが起こっている右手の力を急に緩め、握られた苦無を避けるために同時にしゃがむ。
「きゃっ!」
サギリはヴァンクールのナイフを弾き返そうと必死だったために、急に緩められた力のせいで、サギリ自身がよろめいてしまった。
それを狙っていたヴァンクールは、そのまま自分の頭の上を過ぎて行ったサギリの腕を、下から地面に両腕をつけて思い切り蹴り上げた。
バキッ
その蹴りをくらったと同時にサギリは足を踏ん張って、後方に大きくジャンプする。
そして蹴られた右腕に手を添えて、ヴァンクールを睨み付けた。
腕が折れているようだ。
ヴァンクールは腕の力でヒョイッと起き上がると、またナイフを構える。
サギリは小さく息を吐いて、左手をヴァンクールにむけた。
ヴァンクールはその様子を目を細めて見つめる。
サギリの左手が小さな光を帯びた。
「っ!」
その瞬間、ヴァンクールは顔を右に動かした。
観客にもわかっただろう。
眩い光線がリングの上を走ったのを。
「電気…」
ヴァンクールはサギリの左手を見ながら、左頬を押さえた。
そこから血が流れ出ている。
サギリの左手はいまだわずかに光っている。
それも、電気を帯びていた。
「ヴァンクール。私も本気を出す。だからお願い、あなたも私にラインを殺した太陽の力を見せてちょうだい。」
ヴァンクールは左頬を強く擦るとナイフをサギリに向けて、息を吐いた。
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