準決勝

そしてあっという間に夜は過ぎていったのた。

「こっちこっち!」
コロシアムの観客席の一番前を、傷がすっかり治ったシエルが4人分陣取っていた。

あまりにも遠くからの大声にアシェルとヒロは恥ずかしそうに苦笑い。

今は試合開始の30分前、
アシェルは色々と考えながらゆっくり座席に腰をおろした。

アシェルはちらりと王族の席を見ると、カストレ国王の姿はなく、かわりに若い金髪の青年とピンクの髪の毛の少女、そして茶髪の青年が座っていた。
「何見てるの?」
アシェルの顔をシエルが覗きこむ。
そしてあからさまに嫌そうな顔をして、
「騎士と…」
少し力の籠った声だった気がした。

「カストレの王子だよ。」
ヒロは笑って金髪の青年を指さした。
まあ、遠すぎるから誰を指したかなんて他の2人を知っているシエルくらいだったが、
「あいつが…」
アシェルには怒りが心に積もったのを感じた。

『ううん。アシェル…、ランス王子は人々を尊ぶすごくいい人だよ。
彼のことは悪く言わないで欲しい…』
フレイルの優しい声に不思議と一瞬で心の重たいものは消え去る。
(そうなんだ。)


「あと10分です!」
コロシアム内のアナウンスに観客は歓声を上げた。


ーーーー
そのころ…
ヴァンクールはもう裏でナイフをといでいた。

シュー
「余裕?」
不意に尋ねられる。
「こんにちは。」

揺れる長い黒髪…
サギリだった。
「そのナイフ…
私、知ってる。」
どこか懐かしい表情で、サギリはヴァンクールのいつも使っている使い込まれたナイフを見つめる。
「はい。このナイフ…
兄の使っていたナイフです。」

(あっ…)
ヴァンクールはサギリの顔を驚いた表情で見つめた。

サギリの眉は下がって顔を少し赤らめて…
今にも泣き出しそうな、そんな表情。
(そうか…ラインとよく遊んでたもんな。)
少し嬉しい気もしながら、ヴァンクールは微笑んだ。

「すいませーん。ヴァンクールとサギリ…お願いします。」
急に召集がかかった。


「わかりました。」
サギリはいつもの冷静な声で反対側の入り口へと髪をなびかせながら去っていった。

(よし。)
ヴァンクールもすっくと立って大きな伸びをして、入り口へと向かう。

そして、
「入場ーー!」

清々しい最高のコンディションで今まで最高の歓声の渦へと足を踏み入れた。


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あきゅろす。
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