少年vs老人

(怪我が普通ってことかよ。)
先ほどのおばさんの呟きに対してアシェルも呟くと
『うん。
毎年決勝はすごい戦いだよ。』
とフレイルから意外な答えが帰ってきた。

(あれ、お前この大会に来たことあんの?)
フレイルが隣で柵にもたれ掛かりながらリングから視線をアシェルに向けてうなずく。
『毎年陛下がこの大会に呼ばれているんだけと、護衛が何人かついていくんだよ。
それで一回だけ呼ばれたんだ。
本格的な殺しあいというか…、僕らが見ていて気持ちいいものじゃなかったよ。』
どこか呆れたような、そんな口調でフレイルがため息をついた。

(そっか…。)


「続いては第二試合目。ヴァンクール対アスラン!」
その声にはっとしてリングに目をやると、リングの上には燃えるような赤毛のヴァンクールがいつもどおりの格好でたっていて、
その向かいには…髪の毛のあまりない老人が立っていた。

「おーっと!
これは面白い試合になりそうだ!
初戦から相手から全く攻撃を受けずに、ここまで上り詰めた少年と。
初戦から1分とリングにたっていない老人!
注目選手同士の戦いだー!」

審判の説明を受けて、ヴァンクールも
(やっぱりただ者ではないな。)
と確信したようだ。

老人に目をやると、身長は160くらいで、変わった着物をきている。
今日のヴァンクールのように大きめの服の中に、なにか武器などを隠し持っていてもおかしくない。

油断なんか出来ないことを悟ったヴァンクールは、両手を天に伸ばす。
するとヴァンクールの両手が暖かい光に包まれた。
観客みんながその光に釘ずけになる。
光は大きくなり最大になって小さく消えていった。
そこに現れたのは拳銃、…心刀マリだ。

アスランはその美しいとしか言い様のない光景を見て、嬉しそうに一度うなずくとアスランも両手をまだ昼過ぎの晴天へと向ける。

アスランのしわくちゃの手が光に包まれ見えなくなった。

「!」
やがて光がなくなってそこに握られていたのは、とてもこのような老人には持てないような巨大な斧が握られている。

その瞬間、客席がざわついた。
『あのご老人、少年のことを殺めるつもりかしら。』
たしかにそうだ。
相手はヴァンクールだから直撃などありえないと思うが、もし当たってしまえば…

「アシェル。もしかしたらあのおじいさんってものすごい囚人かもしれないよ…。この大会なら失格はしても、逮捕はないからね。」
ランナが隣で耳打ちした。たしかにうなずける内容の理由だが、
「いや、きっとヴァンクールの力量をわかってるんだ。」
会場はかつてない接戦の予感に緊張感が漂っている。その中に審判の手が上がった。
「それでは、はじめ!」

その熱い戦いの合図とともに客は緊張感から解き放たれたように熱狂的になる。

しかしアスランもヴァンクールも全く動かない。
そのにらみ合いが30秒ほど続いたあと、先に動いたのはアスランだった。

老人とは思えないように飛び跳ねて大斧を振りまわす。
そして急にヴァンクールに飛びかかった。
「ホァー!」
突然飛びかかってきたことと、急な奇声のような叫びに驚きつつもヴァンクールは、その一撃をいとも簡単にバック転でよける。

ドスッ!

やはり斧の一撃は半端なかった。
固い石のリングをまるで豆腐のように綺麗に斧の根本まで刺さっていて、しかも周りに石の欠片が散っていなかった。
『ヴァン、当たったらダメだよ。』
マリが斧を凝視しているヴァンクールに囁く。
ヴァンクールは今まで見たことのない切れ味の斧を、驚いた表情で見つめていた。

しかもアスランはその斧をまた豆腐から包丁を抜くように、するりと引き抜いたのだ。

ヴァンクールはやられてばかりではいけないと、銃をアスランの足に3発
パンッパンッパンッ
と放った。

アスランはその銃弾が放たれた瞬間斧をもちあげる。
ヴァンクールですら斧を盾にするのだろうと思ったが、
「ホァー!」
またあの奇声と共に斧を降り下ろした。

「っ?」
音もなく、銃弾はすべて真っ二つになってアスランを通りすぎた。

「斧で弾切るなんて聞いたことねぇよ。」
アシェルは腕を組んで苦笑い。

ヴァンクールは
(こんなんじゃラチがあかないな。)
『ヴァン、何かあるの?』
その言葉と同時にヴァンクールは両手で銃を構えながらかたひざ立ちをした。


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