あなたが国王であれば

その頃、

ヒロはコロシアムの近くにあるソルフレア城にいた。
ヒロは携帯を開けて時間を確認してから顔をあげる。

「おい!」
ヒロはそっちを見てはっとして頭を下げた。
すぐに頭を少し上げて、目をあげて相手をもう一度見る。

「そんなに改まるなよー」
その視線の先には
「ランス…」
純白のスーツに身を包んだオレンジの短髪の青年。
カストレの王子、ランスだった。

ランスは小走りで手を振っている。
「ごめんな。今日呼び出して。」
ヒロは自分より背の高いランスを見上げながら目をふせた。

「大丈夫だよ。俺はこの大会なんか怖くて見れないからな〜」
と笑う。
その笑顔に安心して、少し目をそらすと、ちらりと誰かが見えた。
「!」
もう一度目線を戻すと、
「お前はヴァンクールの仲間だろう?
ランス王子になんのようだよ。」
ピンクの髪の毛の少女だ。
「おいー…、イクサ。
ヒロは俺の幼なじみだ。おまえたち騎士の敵がヴァンクールとか、そんなことは俺には関係ないよ。
今はそんなこと言うな、」
それを聞くなりイクサは頬を膨らませる。


ランスはヒロがカサハラに行く前に父親の主従関係からの幼なじみだ。
その後色々あってすぐに別れてしまったが、

それからカサハラにランスが時々遊びに来ていた。
メールもするし、身分は違えど仲のよい友達である。

「直接話したいことってなんだ?」
ランスが優しく微笑む。
ヒロはため息をついてから、

「国王。病気なのか?」
と小さく呟いた。
一瞬ランスは真顔になったがすぐに眉をおとして
「まあな。そんなに長くないみたいだ。」

国王が死ぬことにたいしては、カストレ国民は無知だからわからないが。
どの国の人間からも喜ばれるのは間違いない。
きっとランスが国王になればいい国を築いていけるだろう。

しかし、セイカ。
奴がいるのだ…
セイカは絶対に何か事をおこそうと、日々強くなっている。
ランスの政策が邪魔になることは間違いないだろう。

ランスは戦争をやめたいとずっと言っていたから。
もし戦争が終われば、騎士なんか必要ではなくなるから、今地位を乱用して咎めを受けていないセイカも今の騎士が敵に回れば苦しい筈だ。

ーもしランスが国王になれば、セイカはまずランスを殺しに来る。


「なあ、イクサちゃん?だっけ。」
ヒロがイクサに話しかけるなりイクサは睨み付ける。
「なんだよ。」
「騎士はセイカを殺せないのか?」
ヒロ以外の2人とも目を丸くした。
「ヒロ…いきなりそれはないだろ?」
ランスは苦笑いだ。
「国王の命令のひとつだ。"セイカを追うな"…理由は簡単だ。殺されるから…
セイカが敵に回っていない分、カストレは幾分マシということ。あとどこにいるかもわからない。」
イクサはヒロの目を見ないで語る。
「おまえたちのせいで騎士が3人も死んだんだ。
これ以上減ってどうする?」

「それはおまえたちがヴァンを狙うから…!」
ヒロが眉を下げながらイクサを睨み付けた。

「ヴァンクールがセイカの心刀になれば、それこそ終わりなんだ。」
不意にランスが呟く。
「ヒロ、お前がヴァンクールに付き合う必要がどこにあるんだ?」
イクサも隣でうなずいている。

「俺は正直。カストレのやり方が嫌いだ。
ヴァンはこっちからカストレに仕掛ける気はさらさらないんだ。
いつも逃げているだけ…
なのに、おまえたちはヴァンを追い詰めてる。」

「うん。ヒロ…」
ランスがまたはじめの優しい顔に戻る。
「父上が死ねば、権威は俺に回ってくる。
みんなが俺に期待してるんだ。
俺がカストレの頂点に立てば、戦争がなくなるようにカストレの心刀制度は廃止する。
カストレのみんなが外を知るように大きなエレベーターを作る。
ウェルとクレスタと一緒にスラムをなくす。
イクサに学校に行かせてやる。
それから…。」
「ランス。わかってる。」先程からのイクサのランスを見つめる視線だけで、どれくらい信頼しているのかわかる。

(この人が国王ならどんなに幸せなんだろう…。)


ヒロはイクサをちらりと見る。
イクサと目があった。
「なぁ。」
意外にもイクサが声をかける。
「なに?」
「国王の命令があれば、私ら騎士は命尽きるまで従う。
またヴァンクールを殺しに行くかもしれない。
その時は私たちから死ぬ気でヴァンクールを守れ。

その代わり私たちは王子を死ぬ気で守るから。」

イクサの言葉に胸がいたくなった。
国王とアルヴァがいなければ俺は騎士になりたい。

この王子は死なせてはいけない。ヴァンクールも死なせてはいけない。

「ありがとう。
俺は頑張るよ
父上も根から悪い人ではないんだ。
父上にまた話してみる。」

そう微笑んでランスと別れた。

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