アシェルの一日

〜アシェル〜

アシェルは試合が始まる前に、先にトーナメント表の確認をするためにコロシアムに来ていた。

(あっ!鷺って人ひとりだけシードだ)
アシェルはコロシアムのよく目立つ壁にはり出された紙を見つめていた。
『今日はちょうど試合ないみたいだねー。』
フレイルが嬉しそうに隣で微笑む。

そう、アシェルが試合を見に行けない理由というのは鷺に話を聞くためである。

トーナメント表がはり出されているのがこのコロシアム前だけと前々から公表されていたから、いずれ彼女はここに現れる。
(まあ待っておこう。)

アシェルは近くの階段に腰をおろした。

アシェルがコロシアムに来た時間はかなり早めだったから1時間ほど経ってから続々と選手や観客がトーナメント表を見に来た。

アシェルとフレイルはキョロキョロしながら鷺を探す。

すると試合が始まる1時間前ほどにもう見慣れたさらさらの長い黒髪の女性が前を通った。

アシェルはイライラして目を細めてから右手をついてゆっくり立ち上がる。
理由は鷺が完全にこちらに気付いて、見てみぬフリをしたからだ。

「ちょいちょい…」
アシェルが小走りで近づくと、鷺は小さくため息をついて
「久しぶりね。」
と嫌そうに目を見ずに言った。

アシェルはその態度に眉をひそめて
「シードだな。今日は試合ないみたいだな。」

鷺はやっとアシェルを見て
「まあどっちでもよかったけどね。」
と笑った。
「私に用があるんでしょ?
まあ暇だから聞いてやろう。」
鷺は腰に手を当てて、アシェルの用をズバリと当ててしまう。
アシェルは目を丸くしてから
「ご名答。」
にっこり笑って
「近くのカフェでも行かないか?」
鷺は美しく微笑んだ。



2人はそのまま近くのカフェへと入っていった。
まだ朝早いというのに、目当ての試合までゆっくりしていこうという貴族の人たちがたくさんいた。

「じゃあカフェオレ。」
「私も」
店員に素早く注文してから、アシェルは真顔になってテーブルに肘をついた。
鷺もその態度に待ってましたというように、うっすらと微笑む。

「なんでこんなところにいるんだ?アストラシアの任務だろ。」
その時ちょうど店員が
「お待たせしました。」
とカフェオレを音をたてずにおいていった。

鷺は目の前に置かれたカフェオレを見つめながら、
「任務よ。」
と目を伏せて呟く。
それから顔をあげてアシェルを見て
「ヴァンクールがいるって言われたから。」
それを聞きながらアシェルはカップを口元へ運ぶ
「それはヴァンクールを始末するってことか?」
アシェルが低い声で唸ると、鷺は目を細めてから
「いや、私にはヴァンクールを倒せないって予選で気が付いた。」
とため息をついた。

するとふいにアシェルが
「俺、ミカミに行った。」
と独り言のように呟く。
それを聞いて鷺が気を紛らわすようにカフェオレをのんだ。
「みんなはミカミをくれた父親のバレンチアの子供を守りたいみたいだ。」
鷺はカップを静かに机に置いてから
「でも、セイカなんか殺せない。ヴァンクールの方が弱いでしょ。現実を見てないのよ。」
さらりといい放つ。
「じゃあ、ヴァンクールが死んだらセイカはどうすると思う?
お前はセイカの目的を知ってアストラシアについているのか?
ヴァンクールを心刀に出来ないからといってセイカがその歩みを止めると思うのか?」
急に立て続けに言われ、鷺はアシェルの方をじっと見つめた。
つまりアシェルが言いたいのは、ヴァンクールを心刀にするのを止めたからといって、セイカを止められるのか?ということ。
「セイカはいずれ倒す。その前にヴァンクールを心刀にされると厄介だろ?」
アシェルはそれを聞くなり目を伏せた。
「だったら先にみんなでセイカを倒さないか?」
「前それをサラバ様に尋ねたら騎士がヴァンクールを殺すと言っているのだから、セイカは後回しだ。と言われた。
私個人でヴァンクールを殺すことはないが、私はセイカを殺すことは騎士の意見が変わらない限り無理だと思う。」
アシェルは目を伏せて

「ヴァンクールはセイカの心刀にはならないよ。」


鷺の目が見開いた。
「えっ?」
「ヴァンクールがそう言った。俺が死んでもセイカの心刀にはならないって。」

アシェルはただカップを見ていた。
はっきりいってアシェルにもよくわからないのである。
今この場でこんなことを言ってよかったのか、自分が鷺をどうしたいのか…
「なんかごめん。とにかく、アストラシアは騎士の味方なんだな。」
アシェルは席を立った。

鷺はただ黙ってアシェルを見つめている。
「今日はありがとう。」
そのままお金を置いてアシェルはでていった。



(俺は何をしたいんだろう。)

鷺はただうつむいていた。



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