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シリアス




今年三度目の雪が、街に舞い降りた。


冷たく澄んだ空気のなか、かじかんだ指先は綺麗にラッピングされた包装を撫ぜる。

約束の時間はとうに過ぎていた。それでも天草くんを信じたい一身で、雪の中のベンチでかじかんだ指先をすり合わせている。


このまま、帰れたらどんなに楽だろう。
でも逃げたくない。…ただ待つだけもいやだ。

来ないかもしれない。そしたら私のこの思いはこの冷たい雪の中に埋もれて消えてしまうのだ。

それだけは、いやだ。

マフラーを直して、雪を払う。
踏み出した足の速さは、段々と速まっていき、天草くんの家へ。


着いたときには、上がった息が雪に混じって雪景色に溶けていった。


ぴんぽん、呼び出し鈴が鳴って、1、2、3、4、5。
心臓が五つを数えて、インターホンから天草くんの無愛想な声が聞こえた。

「私、苗字です。えっと、少し良いかな?」

「……、良いですよ。」

考えるような間の後、少しも弾まない天草君の返答。
迷惑なのは百も承知なんだ、こんなことでめげられない。

少ししてラフな格好の天草君が出てくる。

「…どうしたんですかい?」

「手紙、読んでくれたでしょう?」

手紙という単語を出した途端、やっぱりか、と天草君が顔をしかめた。

「はい。いけなくて、すいませんでした。」

「ううん、いいの。ただ、迷惑を承知で私の気持ちを聞いて欲しかったんだ。」

「…!」

天草君の言葉が私の言葉を遮る前に、手のひらで制した。気圧された天草君は完全に、押し黙る。

ありがとう。

「天草君、好きです。大好きです。」

ありふれたシンプルな言葉。でも、それでも、気持ちが伝われば、飾り付けなくたって、良い。

「…迷惑ですよ、そんなの。」

天草君からそんな言葉が零れた。それと同時に、涙も。

「迷惑です。俺、俺は、あんたのこと、好きになっちゃいけないのに」

ゆっくりと天草君の腕が私を包み、躊躇いながら私を抱きしめた。
大丈夫だよ、期待なんかしないよ。分かってるから。

「俺には、大事な人がいるんです。…それは、恋人とかそういう意味でじゃ、ないかもしれない。」

「…うん。」

「でも、ほんとにすみません、それでも付き合えないんです。あの人は、俺が居ないとダメだから、俺が支えだから。あの人を、守りたいんです。」

「知ってる、天草君は優しいから。そんなところが好きなんだもん。」

気がついたら私も泣いていた。
ああ、このひと時だけでも幸せだったよ。

ぐっと腕をつきたてて、天草君の体を放す。


「ありがとう。ごめんなんて、絶対に言わないで。大好きでした。これからも大好きです。さようなら!」

最後の方は、涙に紛れて聞こえなかったかもしれない。
それでもきっと、天草君なら分かってくれている。
ありがとう。

天草君を背に、走り出した。
二月の雪はすぐに溶ける。
私の恋が、そうだったように。


温もりに、雪は溶けゆく





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げげげ撃沈
*バレンタインフリーでした。現在はフリーではありません。*

20100220 のあ初季

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