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咲く


緑色の葉が生い茂るキャンバスに、筆を走らせる。赤、白、黄色に紫。

「…できた。」


薔薇園の風景画。通路を陣取って絵画道具を広げ、朝からここで薔薇園を描いていた。

そして今、最後に色とりどりの薔薇を描き入れて完成したところで。

椅子から立ち上がり一歩後ろに下がって出来栄えを確かめる。
(うん、なかなか、だよね。)


その様子に気付いたのか、今まで薔薇園のなかで鬼ごっこをしたりして遊んでいたいとこの皆が絵の前に集まってきた。

ちなみにいとこの皆は、お昼過ぎにゲストハウスから出てきて遊食後の運動だとんでいた。


「おー、薔薇園が綺麗に描けてるな!私の部屋に欲しいくらいだぜ。」

「もう、朱志香ってばお世辞上手いんだから。」

「でも本当に綺麗にかけているよ。次のコンクールではきっと受賞できるね。」

「ありがとう。受賞したら皆でパーティーしたいな!」

「おお、パーティーか。そん時は俺も呼んでくれよな!」

「うー、真里亞も真里亞もー!パーティーパーティー!」


今まで描く事に集中していたからか静まり返った周囲に、花が咲いたように賑やかになる。

道具を手際よく片付けながら、いとこの皆と談笑する。 

「でもなんか、足りねーよなぁ…」


ぴたり。戦人くんの言葉に道具をしまう手を止めた。

「おいおい戦人、お前口出せる程絵に詳しいのかよー?」
「ううん、いいの朱志香。ねえ戦人くん、何が足りないのか教えて!」

私がぐいっと戦人くんにせまると、朱志香に落ち着けと首根っこを捕まれて座らされる。

「いっひっひ…昔っから、名前のそういうところ変わってないんだなー…」
「うーうー、変わってない!名前は真里亞と一緒でお絵描き大好きなんだよ!」
「私もこいつの熱心すぎるところには振り回されてばかりだぜ」

「ごめん…」
「気にすることはないよ。朱志香ちゃんも戦人くんも迷惑だとは思ってないだろうし。そうだろう?」

譲治さんの言葉に、朱志香も戦人くんもそれぞれ頷いてくれる。ああ幸せだな、なんて。


絵画の道具を握りなおして、自分の絵と再び向き合った。確かに、こんな薔薇の花だけの絵なんて日本中どこにでもある面白みのない絵だ。

頭のなかにたくさんの色を思い浮かべる。

なにが足りないのだろう。なにがあれば満たされるのだろう。


これはただの薔薇園だけではないのだ。皆を薔薇で表現している。赤は戦人くん、白は真里亞ちゃん、黄色は朱志香、紫は譲治さん。


何が私達には足りないのだろうか?何があれば私達は満たされるのだろうか。

…あ。



そういえばもう一人、大事な人を忘れていた。私としたことが、なんであんな大事な人の存在を忘れていたのだろう。


パレットから黄色を筆にとり、輝く鱗粉を撒き散らしながら舞う金色の蝶々を書き足した。

(魔女なんて重苦しい枷は捨てて、)
(人間の幸せに溺れてみたらどう?)

(ねえ、ベアトリーチェ)


(魔女になってあなたは魔法以外の幸せを手に入れられたの?)






薔薇く、
(苗字名前、某コンクール金賞受賞作)
(“最後の一人”)





ゲストハウスの壁に立てかけられた絵を、月明かりを頼りに魔女は見ていた。

繊細な筆使いで描かれた薔薇達と蝶は、本当にそこにあるかのようで。
美しい、と魔女は艶やかなため息を漏らす。

「…妾は。あんな忌々しい肖像画よりも、こちらの方が好きだ。」


魔女は、悲しげに絵描きの寝顔に微笑むと、絵にまじないをかけて夜闇に溶けていった。



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いとこのほのぼのが書きたかった、んだ。

090706 初季

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