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宛先




手のなかに収まっている小さな包みに視線を落とす。これは今日の調理実習でせっせと作ったもので、小さなマフィンが二つ。家から持参して来たかわいらしい花柄の包みに包まれている。


本来ならこれは、いま私の手の中にあるべきものではない。
…あげる、はずだった。わたしの好きな人に。彼の教室の前まで行ったのだ。行ったの、だけれども…。そこで私は彼が頬を染めながら彼女らしき人物から同じマフィンを貰っているのを目撃してしまった。


ほんとに不可抗力。あんなものを見せ付けられて誰が渡せるというのか。そんなこんなで私は自分の教室へとさっさと逃げ帰ったわけで。

そして今現在誰もいなくなった教室でマフィンと睨めっこしている。どうしよう、これ。わざわざラッピングしたのに自分で食べるなんて虚しくてできない。


リボンにぶら提げられた宛名を書いた小さな札が妙に物悲しくて、ぶちりと紐を破ってとる。ハートなんか書いてうかれていた自分がばかばかしい。


「なあ。」
不意に声を掛けられて驚く。声のしたほうには窓からクラスメイトの戦人くんが顔を覗かせていた。

「ん?なに?」
「それ、俺にくれよ。」

そういって戦人くんはわたしの手の中を指差す。それ、とはこのマフィンの事なのだろうか。お腹が好いてるのかな。どうせどうしようか迷っていたものだし、ちょうどいいと私は二つ返事で承諾した。


「よっしゃ。苗字のマフィン食いたかったんだよな。」
「え…」

それってどういう…、人懐っこい笑みを浮かべて喜んでいる戦人くんに聞く。

「いっひっひ、そりゃあ好きな奴の手作りって聞いて男なら欲しくない奴は居ないってもんだぜ?」
「好きな奴、ってそんな冗談い」
「これだけ言って分かんねーのか?」


「俺は苗字が好きだ。」

瞬間、私の顔にたくさんの熱が集まってぶわっと熱くなる。冗談だと思って、笑い飛ばそうと思ったのに真剣な顔で言われたら笑い飛ばすどころか言葉を返すことさえできなくなる。

呼吸するのだってむずかしい。
言った本人もそうとう照れていて、私とおなじくらいに真っ赤になっている。

戦人くんは照れ隠しをするようにニ、三回頬を掻いて目線を泳がせた。その表情が、なんとも可愛らしい。


「お前があいつを好きなの分かってるけど、さ。」
あいつ、あいつって。ああ、彼のことか。ついさっき、玉砕したんだけどね。何故知ってるんだろう、分かりやすかったかな。

「返事はいますぐ、じゃなくて構わない。考えてくれるだけでいいんだ。」
「え、ちょ、戦人くん…」

あんま期待はしてないけど、良い返事待ってるぜ。
そう言い残してさっさと戦人くんは行ってしまった。大声でばとらくんと呼び止めようかとも思ったけど、今は恥ずかしくて上手く話せそうにない。私は心の中でなんて勝手な、と呟いてみたものの、怒る気はまったく起きなかった。


「あ、マフィン」
結局持っていかなかったよ戦人くん。仕方ないなあと小さく呟きながら私は手に握られていた札を取り出す。

彼の名前には線をひいて、あたらしく名前をかく。





(彼の髪の色でかいたなまえ)
(その下には、愛を込めてハートマーク)





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なんか久しぶりに戦人書いたら口調がわからんくなってた。

20090613 初季

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あきゅろす。
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