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ずるいひと(もっミーナ)
部屋には万年筆を走らせる音と書類が擦れ合う音しか聞こえない。

よく耳を澄ませば海の小波の音が聞こえるが、それも僅かである。



目の前に積まれてある書類の殆どが上層部からしつこいほど要求されているネウロイとの戦闘やその他経理等の報告書。


ネウロイの戦闘報告はしかたがないとしても、聞いてどうするのかわからないことや同じことを報告書として提出する度に頭が痛くなる。



どうやらウィッチ隊を気に入らないあのブリタニアの空将はどんな些細なことでもいいとばかりに、我々の付け入る隙を探しているようだ。


嫌がらせのように予算削減をしたと思うと、今度は無駄な努力を子供じみたことに使う。

戦争屋の悲しい性なのだと同情してならない。





今日の分の書類を片付けると、思わず大きなため息を吐いてしまう。



「だめね…ため息なんか吐いてたら」



自嘲気味に自分に苦笑する。

仮にもウィッチ隊の隊長なのだから弱気な姿勢などするべきではないのだから。




不意にドアがノックされた。



「はい、どうぞ」



ノックの主は私が返答し終わる前に部屋に入ってきた。



「やぁ」
「少佐?こんな時間に…」
「もう勤務時間はとっくに過ぎているんだ、畏まらなくていい。お前こそこんな時間までどうした?」
「書類を片付けてたのよ、上層部からのね」
「あぁ、それは私も手伝うべきだったな…すまない」
「いいのよ、これも私の仕事だし。それにあなたこういう作業は苦手でしょう?」
「参ったな、いやまぁ、その通りだが」



苦笑いを浮かべて頬掻く美緒。


ウィッチ隊の中でもお互いに気を許し、言葉が少なくとも意思が通じ合える数少ない人物の一人。

同時にプライベートでもかけがえのない大切な人。




「それで、美緒はどうしてここへ?」
「あぁ、こいつを一緒に飲みたくてな」


片手に持っていた大きめの瓶を私に見せた。



「それって…」
「扶桑の酒だ。この前本国にいる同僚から送られてきたんだ」
「そう、それじゃあ私の部屋に行きましょうか」
「あぁ、そうしよう」







部屋に入り明かりを点ける。


時計は既に十時を回っていた。




「グラスはこれでいいかしら?」
「あぁ、構わない」
「これは何か手を加えるの?」
「いや、今日はそのまま飲む。ロックや温めたりする飲み方もあるがな。扶桑酒は飲み方が豊富なんだ」
「あら、そうなの」



美緒と私のグラスそれぞれに酒を注ぐ。


「それじゃ、今日もお疲れ様」
「あぁ、乾杯」



ちんっと、グラスを軽く合わせ、酒を少し口に含む。




「どうだ、いけるか?」
「えぇ、この味好きよ」
「そうか!それは良かった。はっはっは」



私の好きな美緒の特徴的な笑い方が、心地よく耳に残る。








飲んでいるうちに、いつしか口が軽くなったように私は無意識に愚痴を漏らしていた。




「ホント、あの人ウィッチ隊をネウロイと同じように思ってるんじゃないかってたまに思うときがあるわ」
「マロリー大将か」
「この前の難破船の事といい、昇格のことしか考えていないのが見え見えで、正直うんざりよ」
「確かにな」
「あ…ごめんなさい、何だか私の愚痴ばかり…」




私ははっと我に返った。
せっかくの晩酌なのに隊長らしかぬ愚痴をぼろぼろ零していたことにやっと気づいた。





「いや、いいんだ、それが目的だからな」
「え…?まさか…」
「お前は色々とため込みやすいところがあるからな。こういうことでもしないと吐き出さないだろう?」



してやられた気分だ。
上手くこの人に誘導されてしまった。



いつも豪放磊落なくせに、細かい所に気を配るのだ。


そして無意識に私をくるめてしまうようなことをする。


いい意味でも悪い意味でも質が悪い。

本人が周りから天然でジゴロだと認識されているのにも、きっと、いや確実にわかっていないだろう。







「私がいるんだ、偶には甘えてくれ、ミーナ」
「…そんなこと言ったら一度あなたを掴んだが最後、噛みついて離れないわよ?」
「それはそれは、むしろ本望だな」
「美緒…」
「ミーナ」



私はグラスをテーブルに置いて、立ち上がり美緒に近づく。

美緒もグラスを置いて、近づいた私の腰を抱き寄せた。


私が美緒の肩に手をやると、眼帯を着けていない方の瞳が優しい眼差しで私を見上げる。


私は眼帯を指先で撫でながら呟いた。




「それじゃあお言葉に甘えようかしら」
「あぁ、なら、そちらへお連れしようか?」




美緒が顎で指し示した方向には、乱れなくきちんと整えられたベッド。



平気な顔をしてそういう誘い方をするのだからこちらが恥ずかしくなってしまう。




「…ええ、お願い」
「仰せのままに」



そういうと、立ち上がって私をひょいと抱き上げる。


そのままベッドに静かに下ろすと、髪を一房そっと手にとって口付けた。


私もそれに答えるように美緒の頬撫でる。



美緒は慣れた手つきで私のリボンを解き、ボタンを外していく。




「綺麗だ、ミーナ」


首に顔をうずめて言うものだから、体が一瞬びくっと震えた。



そんな私の反応を楽しむように美緒は行為を続ける。



「…あなたは本当に、ずるい人ね」
「私はただ誠実に生きているだけだが?」
「そういうところが、よ…」




最後の言葉を言い切らないうちに唇を塞がれた。






…これだから扶桑の魔女は。




end




あとがき
もっミーナってどうしても思い浮かぶのが甘酸っぱい青春っていうよりはアダルティーな大人な関係です(笑
やっぱりミーナさんじゅうはっさiいえ何でもないですww

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