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優しい手(刹この)
「く…っ!」



脈を打つような激しいが右手を襲う。



応急処置として巻いたハンカチには既に血が濃く滲んでいた。





今日の魔物討伐の仕事は、当初教えられていた情報では魔物は二体のはずだったのだが、実際ではその倍の六体だった。


二体ならば一人で十分、と単独でこの仕事を引き受けたのだが、予期せぬ事態に一瞬の隙をつかれ右手を魔物の鋭い爪により負傷してしまった。



魔物自体は時間をかけながらもなんとか全て討伐することができたが、ひどい出血と疲労感により足元がおぼつかない。






痛みに耐えながら寮に着いたときには、もう既に日付が変わっていた。



傷が深く抉られているため、右手を下向きにすることができず、左手で右手首をつかんでなんとか上向きに支えている状態だ。



「…出血しすぎたか、頭がくらくらするな…」




こんな姿をお嬢様に見せられない。




その一心で自室へと一歩、一歩歩みを進めた。




はずだったのに。




やっとの思いでたどり着いた自室のドアの前に、人が立っていた。


今一番、会うのを避けたかった人。





「お、嬢様…?」
「…せっちゃん!」
「あ…っ」


とっさに後ろで両手を組んで怪我を隠す。

お嬢様は小走りで近づいてきた。



「どうしてここに…」
「せっちゃんがお仕事終わるの待ってたんや。龍宮さんもおらんみたいやからドアの前で待たせてもろてたんやけど」
「龍宮も朝方まで仕事が入っていますから…しかしお嬢様、お気持ちは嬉しいですが、寮とはいえこんな時間にお一人では危険です。どうかお部屋にお戻りください」





夜中にお嬢様を一人で部屋から外出させてはいけない、というのもあったが、実際は今の自分の情けない姿に気づいて欲しくないという思いの方が強かった。



私はいつもより少し早口でお嬢様を促した。




しかしお嬢様は私をじっと見つめて返事をしてくれない。




そして眉間にしわを寄せて悲しそうな顔をした。





「せっちゃん。隠し事は嫌や」
「…何のことでしょうか」
「とぼけないでっ。右手、怪我しとるやろ」
「……」






気づかれてしまった。



情けなさに動けず、何も言えない。





「…申し訳ありません…」
「とりあえず部屋入ろ…?」
「…はい」




私は隠していた右手を体の前に出して、左手で鍵を取り出しドアを開ける。



私の右手を見たお嬢様はより一層悲しそうな顔をした。







部屋に入るとお嬢様は手際よく私の傷を消毒し、ガーゼを当て、包帯を巻いていく。




「うちの治癒魔法じゃせっちゃんの傷、まだ治せんのや…堪忍な?」
「いえ、勿体無いお言葉です」





私はお嬢様の手の温度が好きだ。



温かくて、優しい気持ちにさせてくれる。




しかし、本来、私はそのようなことをしていただけるような身分では到底無い。



ましてや護衛が主に想いを寄せるなどもってのほかだ。





これは許されないことなのに。




私の甘えが如実に出ているではないか。





突然お嬢様が口を開いた。






「せっちゃんが何考えてるか当ててみよか?」
「え?」
「“お嬢様に甘えてはいけない、身分が違いすぎる”…ってとこやろ」
「……」






お嬢様は包帯で包まれた私の右手を両手で優しくさする。





「ほんま頭固いんやから…」
「すみません…」
「…まぁ、そんなところもうちは好きやけどな」
「な…っ!」
「せっちゃん、顔真っ赤っかや」
「お戯れは止してください…!」





顔に血液が集中するのがわかった。


お嬢様は面白がってくすくす笑っている。





「せやからせっちゃん、そないに深刻に考えんで」
「…はい」







お嬢様はすごいお方だ。



お嬢様は私の固い心を一瞬にして解きほぐしてくれる。




暖かく優しい温もりに包み込まれているような気分にさせてくれる。




いや、実際きっとそうなのだけど。




ただ、私の方が未熟で、お嬢様を受け入れられるほどの器ではないのだ。





だから、そんな私がお嬢様の隣にいてはいけないと思っていた。





だけどたった今、それは間違っていることに気づいた。






「お嬢様…私は、未熟者です。お嬢様に相応しい器でありません…」
「せっちゃ…」
「…ですから、お嬢様に相応しい器になれるよう努力します…だから、お嬢様の側にいてもよろしいですか?」
「……!」





私の言葉にお嬢様は目を見開いて驚いた。






私はやっとわかったのだ。




今までの私は自分の未熟さを建て前にしてちゃんとお嬢様に向き合ってなかった。





自分を受け入れてもらうことに臆病になっていたのだ。






ならば、側にいながら強くなればいい。



だってこんなにもお嬢様は手を差し伸べて私を求めてくれている。





私は頭が固いから、側にいることと強くなることを一緒にすればいいという考えは思い浮かばなかった。





お嬢様にそれを気づかされた。








そうしてやっと目の前のお嬢様に向き合うことができたのだ。









「そんなん、当たり前やん…!」





お嬢様が私の胸に飛び込んできた。

目には涙を浮かべている。



私は戸惑いながらもしっかりと抱きしめた。



お嬢様が顔を上げた。





「せっちゃん、好きや…」
「私も…お嬢様のことが、好きです…」





いつの間にか私とお嬢様の手は指を絡め合っている。




指先から優しい温度が伝わってくるような気がした。





end




あとがき
まとまりが無い上に長っ!!orz
初刹このSSですっ(=^▽^=)
主従萌え!!ヽ(゜▽、゜)ノ

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