かわいいあなた(つぼえり)
道に伸びる影は二人分。
前にも後ろにも誰もいない。
遠くに聞こえる、河川敷で遊ぶ子供たちの無邪気な笑い声に自然と笑みがこぼれる。
しかし対照的に、隣で歩く彼女はご機嫌ななめのように見える。
「むー…」
「あ、あのー、えりか?」
「…なにー」
「何でそんなに怒ってるんです、か…?」
おそるおそる、顔色を窺いながらとりあえず聞いてみる。
唇を尖らせたえりかはさっきよりも増して不機嫌のよう。
「…わかんないの?」
「わかんない、です…」
「じゃあ、教えてあげる」
えりかは立ち止まって私を見上げながら少し睨んだ。
私も背筋をピンとさせて言葉を待つ。
「今日、生徒会長とやけによく喋ってた」
「ふぇ?」
思ってもいなかった答えに私は面をくらった。
「あたしが隣にいるのに!」
「えっ、えっ…」
「楽しそうにしちゃってさぁー…」
そのまま俯いてしまった。
確かに今日は生徒会長さんとたくさん話をしたけど、あれは。
「…えりか、あれはお花の相談をされていたんです」
「…え」
「先生が急遽、お一人離任されるそうなので、生徒会としてうちのお店で花束を用意したいそうで」
「…それだけ?」
「それだけです」
「…なーんだぁっ」
口を開けてぽかんとしていたえりかは、安心したように声を上げる。
その顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
「もうっ、あたし、まだつぼみが生徒会長のこと好きなのかとてっきり勘違いしちゃったじゃん!」
「あ…もしかしてやきもち焼いてくれたんですか…?」
「むー、そうだよー、つぼみのせいーっ」
「あうっ…す、すみませんっ…でも」
「でも?」
「私が好き、なのは、その…りか…す…ら」
「へ…」
恥ずかしくて、最後の方をうまく口に出すことができない。
お腹の前で両手を絡めてぎゅっと握る。
それを見たえりかはいたずらっぽい声でふふふと笑って、夕日を背にして、私の前に回り込んだ。
そして、耳に手をあてて、あのポーズ。
「何ー?聞こえなーい!」
「ええっ!?」
「へへへっ。ねぇ、つぼみ、ちゃんと言って?」
「えりか…」
「あたしもちゃんと聞きたいよ」
よく見るとえりかの頬はほんのり紅く染まっている。
照れたように、小さく咲いた笑顔。
そして、その瞳はまっすぐ私を見てくれて。
小さく息を吸って、私もしっかり目の前の瞳を見つめる。
「私が…私が好きなのは、えりかですから」
「つぼみぃ!」
「わぁっ!」
言い切ったと同時に首元にしがみついてきたえりかに、驚きながらもちゃんと抱きとめる。
瞬間、風が頬を撫で、鼻をえりかの髪のいい匂いが掠める。
「えへへーっ、あたしもつぼみのこと大好きだよ!」
「は、はいっ…えへへ」
「いひひっ」
何だかくすぐったくて、二人でくすくす笑いあう。
そうして自然と指と指を絡めて。
また二人で影をそろえて歩き出した。
「ねぇ、クレープ屋さん寄っていこうよ!」
「あ、いいですねっ」
「よし決定!じゃあ急ごう!」
「わっ、もうっ、えりかったら…」
繋いだ手にぎゅっと力を入れれば、じわりと広がる温かさ。
食べ過ぎないでくださいね、なんて少し意地悪なことを言えば、彼女はむっとして舌を出す仕草をして見せて、すぐにまた笑ってくれるのだった。
end
あとがき
拍手で「書いてみませんか」と言われたので思わず書いてしまいました(笑
つぼえり可愛いよつぼえり\(^O^)/
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