ねこのきもち(宮ゆの)
暖かい日差しが降り注ぐ午後。
そんな日のベランダは、格好のひなたぼっこスポット。
服が汚れるとか、そんなことも気にせず、胡座をかいて体いっぱいに太陽の光を浴びた。
「うーん、いい天気ですなぁ」
「にゃぁお」
「んー?」
腕を広げて背伸びすると、どこらかともなく猫の鳴き声。
聞こえた方を振り向くと、見慣れた猫が三匹こちらを見ていた。
「おー、君たちもひなたぼっこかね。おいでおいでー」
「にゃあ」
手招きすると、三匹はとてとてと近寄ってきて、私の膝や肩で思うがままに寛ぎ始めた。
そんなとき、部屋のドアがこんこんと控えめにノックされた。
「宮ちゃーん、いるー?」
「おー、ゆのっちー。開いてるから入ってきてー」
「うん、おじゃましまー…宮ちゃん、何してるの?」
ドアを開けたゆのっちは私がベランダの真ん中で胡座をかいていたのを見て少しびっくりしたようだった。
私が笑顔で答えるとゆのっちも笑って、小さな足音を立てながら、私の側にちょこんと座った。
「ひなたぼっこ?」
「うん、そう。ゆのっちはどうしたの?」
「今日、沙英さんの小説書き終わったからみんなで軽くパーティーしましょうってヒロさんが。宮ちゃんにも伝えにきたの」
「あ、そうなんだー、よかったねぇ。ん?てことは沙英さん今はお休み中かぁ」
「うん、だから、しー、ね?」
「しー、だね」
二人で人差し指を唇に当てながら小さくくすくすと笑った。
するとゆのっちは私の膝の猫に気づいたらしく、三匹いるうちの、私の膝を陣取っている三毛猫を優しく撫でた。
「ねこちゃんも一緒なんだね」
「そ、みんなで仲良くねー」
そうして、しばらく二人で猫を撫でていた。
何も喋らないけど、和やかな沈黙。
そよ風が頬掠める。
「宮ちゃんは猫好き?」
「好きだよー…ゆのっち?」
「……」
唐突な質問に答えるも、どうも様子がおかしい。
顔を俯かせて、猫を撫でる手を止めたゆのっちの顔を伺った。
「私、ねこちゃんになりたかったなぁ」
「…なんで?」
「だって、何も言わなくても、こうしてずっと撫でてもらえるし…、宮ちゃんも、その…」
「ゆの」
続くはずの言葉を遮り、その細い腕を引き寄せて、抱きしめた。
その拍子に私の膝や肩にいた猫たちは反射的に逃げて、ベランダの端の方にいった。
その顔はせっかくの寛ぎ時間を邪魔されて不満だと言っているようにも見えた。
そんな三匹に私は悪いね、と目配せをする。
「みっ、宮ちゃん!?」
「ゆのが猫っていうのも可愛くていいと思うけどー」
「へっ、きゃ…っ」
軽い体を持ち上げて、胡座をかいた自分のに乗せ、思いっきりだきしめた。
いつものゆのの香りが鼻孔をくすぐる。
「でも人間じゃなきゃ、こうして力いっぱい抱きしめらんないよ」
「う、ん…」
「それにね、猫は“にゃあ”ってしか鳴かないから、ちゃんと言葉を言ってもらえない」
「でも、私、言葉で気持ち伝えるの下手だから…宮ちゃんみたいに上手にできないよ…」
「それでもいいんだよ。私はちゃんと、ゆのの気持ちをゆのの言葉で聞きたい」
「宮ちゃん…」
「聞かせてくれる?今のゆのの気持ち」
さらに腕に力を込めると、ゆのが首に腕を回して顔をうずめた。
さらさらした前髪がくすぐったい。
「あ、のね…」
「うん…」
「その…」
「……」
「す…す…好き、だよ…」
「…私も好きだよ。愛してる」
ここがベランダだということも忘れて、何度も唇を合わせた。
可愛い可愛いゆの。
たった一言言うためだけに、こんなに顔も耳も真っ赤にして。
さりげなく、小さな手でぎゅっと私の服を掴んでいたり。
猫になりたいだなんて本当、勿体ない。
空気を読んだのか、いつの間にか三匹の猫たちはいなくなっていた。
「もし、言葉にするのが難しかったら、こうやって行動に表してくれてもいいですぞ?」
「そっ、そっちの方が難しいようっ!宮ちゃんのいじわ…」
抗議する口をまた塞いだ。
いちいち反応が可愛いくて、その後も同じことを二人で何度も繰り返す。
「…にゃあ」
途中、屋根の上から呆れたような、猫の鳴き声が三つ、聞こえたような気がした。
end
あとがき
可愛いゆのが書きたかったのに、がっつく宮ちゃんが出来上がってしまいましたとさ(笑
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