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おまけ。
『傘わんこ。』
昔むかし、湊と玲というさして仲の良くない夫婦が暮らしていました。
その日、二人はお正月を迎えようとしていました。おせちを作るのは料理上手の湊の役目です。

しかし、台所に立って湊は栗を買い忘れたことに気がつきました。
これでは栗きんとんが作れません。

「あーあ……玲ぴょんっ」

「殺すぞ」

「すみません……あの、栗きんとんはなくてもいいですか?」

「は?」

湊は軽い気持ちで栗を買い忘れたことを話しました。

「ふざけんなよ!栗きんとんのないおせちはおせちじゃねぇ!」

「えっ!?そんな栗フリーク!?」

「買ってこい。今すぐ買ってこい」

「玲、でも雪降ってるし…」

「知るか。買ってくるまでうちの敷居を跨ぐなよ」

「えぇっ嘘でしょ!?」

湊はあっという間に家を追い出されてしまいました。
仕方なく商店を廻り、やっとの思いで栗を買うと歩きました。雪が積もってサクサクと音が鳴ります。
そのサクサクという音が微かに増えている気がして振り向くと、後ろを犬がついていてきていました。

「わんこ……お前も独りか」

湊が犬に話しかけると、犬は嬉しそうに尻尾をふりました。湊は「連れて帰りたい」と思いましたが、あいにく家はペット禁止でした。

「あ、栗ならあるけど食べる?」

湊がしゃがんで栗を一つ袋から取り出すと、犬はすぐに食いきました。予め皮を剥いてあるものを買ったのです。
もう一つ、また一つ……そんなことをしてる間に、栗は残り数個になってしまいました。

「うぉっ!?ごめん、玲の分がなくなっちゃうから…」

湊が袋の口を閉じて立ち上がると、犬は悲しそうに「くぅん」と鳴きました。
なんだかとても可哀想です。

「……負けたぜわんこ。お前に全部やるよ」

湊は残りの栗を犬の前に全部出して、更に雪に濡れないよう傘を置いてあげました。

玲にどう謝ろうか考えながら湊は手ぶらで歩き始めました。

******

「玲、ただいま…」

「遅かっ……お前、なんで濡れてんだ?」

湊は玲に事情を話しました。栗は買えたものの、犬に栗も傘さえもあげてしまったこと。
玲は呆れてため息をつきましたが、怒りはしませんでした。

「まぁ仕方ねぇな…」

「本当に!?許してくれる?」

「人助け……いや、犬助け?したんだからいいんじゃねぇの?」

「ありがとー玲!大好き!」

湊は玲の優しさにとびきり嬉しくなって抱きつこうとしましたが、すかさず玲に避けられてしまいました。

「寄んな。死ね」

「やだやだ!俺の体をあっためてー!」

「よし。雪ん中に埋めて永遠に冷たくしてやるよ」

「ぎゃー!?」

その頃、家の外では犬の神様がさっきのお礼に高級おせちを運んでいたのですが、熱い攻防戦を繰り広げている二人は全く気づかないのでした。

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