おまけ。
『王子様の言う通り!』2
神楽がパーティーに着く頃、人気者の王子様の回りには早くも人だかりができていました。
「王子様、本当にお嫁さんを決める気あるんですかぁ?」
「さぁなー」
実は一途に愛する気持ちを忘れてしまっていた王子様でしたが、不意にガラスの靴でよたよたと歩いている女の子が目に入りました。
「なんだアイツ…」
不審に思った王子様はその子の元へ歩み寄りました。
「おい、お前…」
そう声をかけると、神楽は王子様を指さしました。
「あっ。タカシナだ」
久々に本名で呼ばれた王子様は驚きました。
「うぎゃ、すみません!王子様ですよね、王子様」
「……別にどっちでも良いけど、見ねぇ顔だな?」
「え、いやっ、俺は別に……うきゃあっ」
神楽は慌てすぎてバランスを失いよろめいてしまいました。
咄嗟に王子様が体を支えてあげましたが、それで王子様はあることに気づきました。
「す、すみません…」
「……お前、男?なんか体つきが…」
“俺”という一人称、一切膨らみを感じない胸板、ヒールに慣れていない歩き方…
王子様の疑問は確信に変わりました。
「そ、そんなまさか……俺が女装癖の変態だとでも?」
「まさにその通りなんじゃねぇの?」
王子様は神楽の体を撫でまわして確かめました。
遠くから見ていた女の子たちは「王子様がお嫁さんを決めてしまった」と残念がっていますが、二人には聞こえません。
「なんで女装してんの?お前」
「え……なんか、バレないか試してみたくて…」
「へぇ……確かに、まぁまぁ可愛いじゃん」
「ホントに!?」
神楽が嬉しそうに笑いました。
すると王子様はこの能天気すぎる男をたいそう気に入り、いじめて遊んでやろうと考えました。
「おい、お前名前は…」
「え?……あぁーっ!!」
神楽は傍らの時計を見て驚愕しました。いつの間に12時数分前だったのです。
「高階ぁ、俺もう帰らないと」
「なんで?」
「この靴借り物なの。12時までに返さないと延滞金が!」
走り出そうとした瞬間、神楽は派手に転んでしまいました。
慌てて立ち上がり駆けていく女装男の姿は、王子様にそれは新鮮に映りました。
「……しかも、忘れてるし」
そう、神楽は転んだ時に脱げた片方のガラスの靴を置き去りにしているのに気がつかなかったのです。
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