おまけ。 『王子様の言う通り!』1 昔むかし、神楽という名前の男の子がいました。 神楽はおとなしい性格がゆえに継母や姉からいろんな雑用を言い渡されてはせっせと働いていましたが、辛くはありませんでした。神楽には密かな楽しみがあったのです。 それは、家族が寝静まった夜に姉たちの服を着てみるという……まぁいわゆる女装趣味でした。 ある日のこと。 神楽の家にパーティーの招待状がきました。このあたりで有名な大地主の息子が嫁を探すために宴を開くというのです。 その息子はかっこよくて人当たりも良いので「王子様」というアダ名がついていました。 「お母様、わたくし絶対に王子様と結婚してみせます!」 「そうね!神楽、ドレスを作りなさい!」 「えっ?あぁ……わかったー」 神楽は姉の婚活を成功させるためドレスを縫い始めました。 そして良いことを思いつきました。余った布で自分の分も作ることにしたのです。 パーティー当日、継母と姉を送り出して一人になると、神楽は自分用のドレスを着てみました。 「うわぁー可愛い!我ながら傑作!」 神楽は部屋の鏡の前でクルクル回ったりして、いつも通り女装を楽しみました。 「あーあ、靴があればパーティーに行くのになっ」 手袋も髪飾りも用意しましたが靴はさすがに作れなかったのです。 靴さえあれば自分もパーティーに行って女装がバレないか試してみたい……そんなことを考えていました。 するとどこからか声が聞こえてきました。 「かわいそうな神楽さん、いつも頑張っている貴方の願いを叶えてあげま…」 「うきゃああぁっ!?」 突然目の前に現れた知らない人間に神楽はドン引きしました。 「幽霊!?幽霊に女装見られたよー!死にたい!あーでも幽霊だから死んでも会っちゃうかぁ…」 「す……すいません、ちょっと黙ってくれますか?」 なんとその男の正体は市早という名前の魔法使いでした。 「では神楽さん、貴方をパーティーに連れていってあげますね」 「えっありがとう……あ、靴がないんだけど」 「わかりました。貸し出します」 魔法使いが杖を振ると神楽はガラスの靴を履いていました。 神楽は「ちょっと歩きにくいな」と思いました。パンプスで良いのにと。 「12時までに返してくださいね。延滞金は一日につき…」 「返却期限あるのー?」 「あります」 「そっかぁ……じゃあ12時に返すねっ」 更に魔法使いはカボチャ色のタクシーを用意してくれたので、神楽は初めて女装したまま外出することができました。 [次へ#] [戻る] |