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もうちょっとメイクビリーブ
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並外れた美貌を持つ東郷先輩。一緒に歩いていてそういう方面から声をかけられるのは今だって同じだった。

『東郷先輩カッコいいから、一回やってみたらどうですか?』

数年後の俺は思いつきでこんなことを言うらしい。そして、ウチの高校で最恐の不良は卒業後まさかのモデルに転身すると言うのだ。

「なんで正座してんだ、急に…」

「だって……なんか別世界すぎて、若干引いてます」

「待て。お前が言うからやってんだぞ?」

知らないよ!
そんな凄いことしてるなんて、ますます自分との格差を感じる…
と言うと、東郷先輩はため息をついた。

「言っとくけどな、大学の合間にほんっと時々しかやってねぇぞ。お前との生活費の足しにしてるだけだし、就職したらやめるし」

「と、東郷先輩の口からなんかオトナ用語が聞こえる…」

「なんなんだ、オトナ用語って」

だってだって、大学とか!生活費とか!就職とか!
東郷先輩なんて将来のこと何も考えずにケンカばっかりしてる変態だと思ってたのに。
ちゃんと大学にも通ってモデルもやってて、就職のことも考えてて、俺より絶対しっかりしてる…

「生活費って言いましたけど……俺は?バイトとかしてないんですか?」

「今はしてねぇな」

「そうなんですか……」

もしや俺、先輩の家に居着いてるニートなんじゃ…
何もしてる気配がない。

「東郷先輩……どうして俺といるんですか?」

気がついたら、そんな疑問が口から出ていた。

「またそれか……お前な、今のお前からしたら嫌だろうが少なくともお前が…」

「そうじゃなくて!逆です、なんで俺のこと嫌にならないんですか…」

東郷先輩が不思議そうな顔で俺を見る。
やばい、なんか、泣きそうだ…

「そりゃあ17歳の先輩は気の迷いで俺のこと好きになったかもしれないけど、5年あって気づかなかったんですか?東郷先輩は何でもできて、俺は何にもできない人間だって…」

恥ずかしさで俯くと、東郷先輩は俺の手から雑誌を取り上げてギュッと強く握った。

「……あのなぁ、お前が今どんなことを思ってるかは知らねぇけど、なんかいろいろ勘違いしてるぞ」

「勘違い……?」

「自分のことは楽しみにしてるから聞かねぇのかと思って、言わなかっただけで……お前もちゃんとやりたいことやってるから」

やりたいこと……?
そんなの今の俺には思いつかないけど…

「お前、保育士目指してるんだよ」

「えっ!?俺が!?ほいくし??」

「教育学部……?だとかに入ってて、バイトしてねぇのも試験前だからだ。試験ねぇ時はしてたよ」

頭がグルグルする。俺が保育士?無難にサラリーマンになるんじゃないの?試験とか受けてるのか?

「そりゃ、子どもは好きですけど……本気で目指してるんでしょうか?俺、保育士なんて…」

東郷先輩は俺の手を握ったまま、もう片方の手で俺の頭を撫でた。

「俺は反対したけどな……子どもなんて何するかわかんねぇし、女の多い職場だし、心配すぎて何も手につかなくなる」

「それは……先輩の都合では…」

「ふっ……お前、同じこと言うんだな」

数年後の俺もそうやって言い返したんだろうか。なんかその場面だけは予想つくような…

「そうしたら、お前が『そんなに反対するなら別れる』って言って、すげぇ焦った」

「そ、そんな事言ったんですか!?」

「そん時に言われたんだよ。『逆に応援してくれるなら、一緒に住んでやってもいい』って」

「う……嘘、そんなこと、言わない…」

「まぁ言い方はちげぇけど……お前、それくらい本気なんだよ」

俺は嬉しいのか安心したのかわからないけど、とうとう泣いてしまった。俺、ちゃんと、将来のこと考えて頑張れてるんだ…
東郷先輩は慌てた様子で俺の涙を拭う。

「言っても結局泣くんだな、お前…」

呆れ笑いする先輩の顔。俺のこの泣きぐせも
、5年間変わってないんだろうなぁ。

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あきゅろす。
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