もうちょっとメイクビリーブ
C
手当てしてあげようと思ったのに、東郷先輩に止められた。
どうやら他の男に触るのが気にくわないらしい。そんな感情1ミリたりともないのに…
「自分の傷は自分で治すのが当然だろ」
「は……はい!!勉強になります!!」
わぁ、なんか上手いこと言いくるめてる。まぁ真木くんが良いならいいけど…
「あれ、師匠タバコ吸いはるんですか?」
真木くんがテーブルの上の灰皿を手に取った。東郷先輩はすかさずそれを奪い取る。
「昔な……今は吸ってねぇよ」
「なんでですの?」
「……嫌がる奴がいるから」
「えっ、もしかして恋人ですかー?」
「まぁ」
俺は『吸って良い』って言ってるのに……東郷先輩が勝手にやめたんじゃんか。
真木くんは東郷先輩の恋人に興味津々だったけど、うまくはぐらかされてた。
「師匠も恋人には弱いんですねー、うらやましいですわー」
「何がだよ…」
「中谷さんは知ってはります?師匠の恋人!!」
えっ…
なんて答えたらよいのやら。
知ってるというか、知らないというか…
「……真木、それ以上人の詮索すんなら帰れよ」
東郷先輩がそう言うと真木くんは慌てて謝っていた。助かった…
「俺、さっきの続き教えてほしいです!!避けて反撃するってやつ…」
東郷先輩はあからさまに嫌そうな顔をしたけど、しぶしぶ真木くんに『殴られた時の避け方』を教えてくれた。
「……そしたら、こっちから来るってわかるだろ」
「そんなん一瞬で判断しますの?」
「する。つーか、しろ。こんなん俺じゃなくても、大体の人間が知ってるぞ…」
「いやー師匠がスゴいだけとちゃいます?」
……なんか、俺ジャマじゃないか?
帰った方がいいかな。でも一応俺が連れてきたわけだし、いようかな…
その後も、東郷先輩はずっと真木くんにいろんな事を教えていた。
あんなに嫌がってたくせに、すっかり師匠面してやがる。
俺といる時は無口だけど、東郷先輩って喋る時は結構喋るんだな…
「だから……お前、身長が足りねぇんだよな…」
「嘘や!!師匠が高すぎるんですよー。2メートルくらいあります?」
「ねぇよ」
「俺も師匠みたいな男に生まれたかったですわー」
……あ。
東郷先輩が、一瞬言葉を失った。
『俺も、あんな風に…』
確か、俺たちの始まりもこんな言葉だったんだよな…
それって、別に俺じゃなくてもよかったってことじゃないか?
例えば、真木くんでも。
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