もうちょっとメイクビリーブ
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その日は『いつもと違うこと事』がよく起きた。朝ごはんの目玉焼きが少しだけ焦げていたり、いつもいる野良猫がいなかったり、自販機の大好きなお茶が売り切れていたり。
そして、お昼休みに会った黒坂先輩の頬に殴られた痕ができていた。
「だ、 大丈夫ですか!?」
ケンカ、といえば隣にいる東郷先輩の専門だ。黒坂先輩は以前『防御しかできない』と言ってた通りケンカした話は聞いたことない。っていうかケンカとか似合わない。
そんな先輩の綺麗な頬の傷痕は、違和感を抱かない方が難しかった。
「いやホントにね......こういうのはキャラじゃないんだけどな〜」
「一体誰に殴られてしまったんですか?」
夏樹も憔悴しきった様子だ。黒坂先輩は苦笑いしながら答えた。
「彼女がストーカーにつきまとわれてるみたいでさ、昨日リュウと歩いてる時に絡まれて...」
君たちはそんな大人になっちゃダメだぞ!と何故か悟された。東郷先輩が一緒にいたなら助けてあげれば良かったのに...
と言うと、「めんどくせぇ」と一蹴された。
「昴を助ける理由がねぇよ」
「い、いやだってそんなの友達だし...」
「まぁ俺も別に助けてほしいと思わなかったけどね」
買ってきたパンの袋を開けて黒坂先輩がフォローするように言うけど、殴られてる黒坂先輩と、黙って置いていく東郷先輩を想像したらなんだかゾッとした。
「今度から助けてあげてくださいね...」
「......お前、昴に気があるんじゃねぇだろうな?」
そう言われる予感がしたから柔らかく言ったのに、東郷先輩はコレだから面倒だ...
「はぁ〜ツイてない。せめてあの時間に帰んなきゃ良かったな......過去の俺に教えてあげたい」
黒坂先輩が珍しく愚痴っている。そりゃそうだ。そんな酷い目に遭ったら後悔の1つもしたくなる...
「か、過去といえば!とても面白い話があるのです!皆さん未来神社の話はご存知ですか?」
夏樹の言葉に俺たち3人はキョトンとした。夏樹なりに黒坂先輩の気を紛らわせようとしてるんだろうか?
「未来がわかるスピリチュアルスポットって呼ばれてて......人気の神社が近所にあるんですよ!」
「未来がわかるって?」
夏樹は俺の問いに「友達から聞いた話ですが」と前置きして説明してくれた。
「そこのオミクジはめったに大凶が出ないことで有名なんですが......もし出たら、その日の夢の中で未来に行けると言われてるんです!」
「へぇ、面白い都市伝説だね」
俺がそう言うと「中谷はロマンがないね〜」と黒坂先輩。夏樹の持ってきた話題で立ち直ったらしい。
「ちょうどいいじゃん。今日の帰りに行ってみようよ!ねぇリュウくん」
「は?やだよめんどくせぇ」
「何事もイベントなんだから......中谷は行ってみたいよなぁ?」
そりゃまぁ、夏樹が教えてくれた話だし、少しは気になるし...
ゆっくり頷くと黒坂先輩はニッコリ笑った。
「はい、じゃあ決定〜」
東郷先輩は溜め息をついた。なんだかよくあるいつもの光景だ。
でも、その日は『いつもと違うこと』が起きたんだ。
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