もうちょっとメイクビリーブ
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もしプール外なら、便所にいるんじゃねぇかっていう見当がついてた。
我慢できなくなってチカラにも告げずにプールを出る…
なんか、ガキならやらかしそうだ。
そう思っていた。
「はぁっ……はぁ…」
つーか……なんで俺がこんなガキのために走り回らなきゃいけねぇんだ。
こいつ“中谷”の姓がなかったらぼこぼこにしてる…
「おい、ガキ……じゃなくて、紅葉」
紅葉は振り向いて俺の姿を認めると、急に目を輝かせた。
「ゴウくん!!」
「なかた……チカラが、心配してる。早く戻るぞ」
紅葉はやっぱり便所の前でうろうろしていた。どうやら帰り道がわからなくなったらしい。
とにかく、これでチカラの泣き顔は見なくて済む。戻るか…
「ついてこい」と言うと紅葉は黙って後をついてきた。
「ゴウくん、チカ兄は?」
「別の場所で、お前を捜してる」
「……ゴウくん、やっぱりチカ兄ちゃんと喧嘩しちゃったのか?」
「別に……“やっぱり”ってなんだよ?」
「チカ兄、ゴウくんが嫌だって言ってたから」
……地味に、傷つく…
ガキの純粋な発言だから、余計現実的だ。そりゃ今日はチカラの機嫌が悪いみたいだけど、紅葉にまでそんな…
「あ、違う!!違うよー」
急に紅葉がかぶりを振ったから、俺は「なんだよ?」と尋ねてみる。
「えっとね、あのね……ゴウくんがモテるの、嫌なんだって」
「……は?」
「ゴウくんが女の人と喋ってた時、チカ兄ちゃん泣きそうなお顔だったぞ!!」
「……う……そ、だろ…」
じゃあ、チカラの機嫌が悪かったのは……俺が女に話し掛けられてたから?
そんなの、嘘だ。だって好きなのも、誰かといるだけで嫉妬してるのも、俺の方ばっかだって…
ずっと…
「……中谷」
どうしたらいいんだ。今すぐあいつを壊れるくらい抱き締めて、唇が麻痺するまでキスをして、頭がおかしくなるまで犯したい。
愛してる、チカラ…
「ゴウくん?」
紅葉が不思議そうな顔でこっちを見てる。
どれだけ俺にとって嬉しい情報を話したか、わかってねぇんだろう。
「早く……中谷んとこ戻るぞ」
あー抱きしめてぇ。早く会って抱きしめてぇ。
今チカラの顔見たら、こんな可愛い奴が嫉妬してくれたんだと思うと嬉しくて顔がニヤけるかもしんねぇ。
でも、とにかく会いたい。
「ゴウくん、僕も中谷だから紛らわしいってばー」
「うるせぇ。いつか、変えるつもりではいる…」
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