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もうちょっとメイクビリーブ
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紅葉が見つかってから、またプールに戻って水泳教室を再開した。
ちなみに東郷先輩はやっぱりカナヅチじゃなかった。

一緒に教えてくれるよう頼むと
「体が浮かねぇ奴の気持ちなんかわかんねぇ」
と一蹴された。やっぱり子供は苦手らしい……。

「うーん、もう少しだと思うんだけどなぁ」

バシャバシャと水しぶきをあげる紅葉を見ながら考えこむ。
紅葉はそんな俺を見てヘラッと笑った。

「チカ兄ー、来週もプール行こ?」

……今日はもう諦めるという宣言か?

「うん……まぁ、いいよ」

「ゴウくんも行こうよー」

東郷先輩は面倒そうに「暇だったらな」と答えた。
行きたいくせに…

「別に、先輩は来なくてもいいですよ」

「……なんでだよ」

「だ……だって全然泳いでないし、紅葉に変なこと言うし、それに…」

「嫉妬もするし?」

「……は?」
誰が!!誰に!!
もしかして、俺が?全然ありえないけど!?

「してないですよ!!何、言ってんですか」

「本当に?」

「本当ですっ!!」

よく見ると東郷先輩の顔は少しニヤついてる。
本当に嫉妬なんかしてないのに……!!

「もう東郷先輩なんか知らない!!紅葉、そろそろ上がろっ」

紅葉の手を引いてプールサイドに向かって歩くと、東郷先輩が後をついてきた。

「またそうやってガキばっか構うのか」

「紅葉のために来たんだから、当然でしょう」

歩きながら返事すると、また後ろから東郷先輩の声。

「そう言ったって、俺が誘っても行かねぇくせに」

「それは……まぁ」

「……なんでお前は、俺の子供産めねぇかな…」

なっ…
「だったら女の子と付き合えばいいでしょう!!どうぞご勝手に!!」

「……中谷、やっぱり嫉妬してねぇか?」

東郷先輩の言葉に顔が熱くなる。
違う!!これは決して、嫉妬なんかじゃ…

「せんぱっ…」

振り向くと、東郷先輩のとびっきり嬉しそうな顔。

それから、一瞬のことだった。
東郷先輩が俺の手を引く。俺は驚いて紅葉の手を離す。
肩を掴まれて、水中に沈められる。思わず目を瞑ると、唇によく知った温かいものが触れた。

「ん……んんっ……!!」

ザバンと音を立てて顔を出すと、東郷先輩がニヤリと笑った。

「だ……誰かが見てたら!!」

「誰も見てねぇよ」

「チカ兄、顔真っ赤だぞー?」

「紅葉、違うんだ!!何もしてない!!やましいことは、何も…」

「逆に怪しくねぇか」

「……東郷先輩の、バカ!!」

まさか水中で、キスしてくるなんて……!!

それでも少しときめいただなんて、少し……嬉しいなんて。
ありえない。絶対ありえない。暑さで頭がおかしくなってるだけだ。
全部、夏のせいだ。

「中谷、俺の家で続きがしてぇ」

「……却下!!」

今年の夏は、灼熱だ。

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あきゅろす。
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