もうちょっとメイクビリーブ # 翌週。 「なんでゴウくんがいるんだー!?」 「いちゃわりぃのかよ…」 紅葉の『ゴウくん』は東郷の『郷』らしい。東郷リュウをゴウくん呼ばわりする5歳児がいるなんて、うちの生徒が聞いたら失神するよな… 「紅葉、東郷先輩も一緒に泳ぐの教えてくれるって。お願いしますは?」 「……お願いしまーす」 偉いぞ、紅葉。さすが俺の従兄弟。 「うん、仲良くしような」 俺は紅葉の頭を撫で……ようとしたけど、また東郷先輩に『俺以外の男に』とかグチグチ言われそうだから寸前で止めた。 すると何故か俺の頭に手が乗せられる。 「……東郷先輩?」 「偉いな、中谷。さすが俺の恋人だ」 「はぁ……別に、先輩のためじゃな」 「こいびと?」 ……あぁっ!? 見下ろすと、紅葉が不思議そうに俺たちを見つめていた。 「ち、がうっ!!恋人……くらい、仲の良い友達っていう意味!!ね、東郷先輩!!」 「さぁな」 この鬼畜!! プールは週末ということもあって、たくさんの子供でにぎわっていた。こういうの見ると、なんだか嬉しい。 「そうか?うるさくて嫌じゃねぇ、普通」 「……そんなことありませんよ。俺、子供好きだし…」 ムッとして言い返すと、今度は東郷先輩がムッとした。 なんで俺がムッとされなきゃ……!! 「チカ兄ー!!早く泳ぐの教えて!!」 気付いたら紅葉はプールの中に入ろうとしていた。 「あ、体操してから入らなくちゃダメだろ!?」 急いで駆け寄ろうとすると、後ろで東郷先輩が呟いた。 「子供か…」 ……ん? 東郷先輩、子供ほしくなったのかな。結婚願望とかなさそうだけど… 「紅葉、もっと力抜いてみな?」 「うーん……こう?」 困ったなぁ……もう一歩なんだけど。 紅葉は水泳も何も体を水に浮かせることからできないみたいだ。こういうのって、説明できるもんじゃないんだよなぁ… 「……ねぇ、チカ兄ちゃん」 浮き輪にがっしり掴まったまま紅葉が尋ねる。 「ゴウくんはなんで見てるの?」 「……うーん」 そう、東郷先輩はずっとプールサイドに座ってこっちを見張ってる。 せっかく来たんだから、泳げば良いのに… 「ねぇ、なんで?」 「さぁ……泳げないんじゃないかな?」 適当に言うと紅葉は大笑いした。 まさかとは思うけど、本当に泳げなかったら笑えるな… 「ちょっと訊いてみようか?」 「うん!!訊くー」 あぁ、本当に『泳げない』とか言われたら笑っちゃうな… [*前へ][次へ#] [戻る] |