もうちょっとメイクビリーブ
R
無機質な、インターホンの音。
幸せの終わりを告げるベルだった。
「……東郷先輩、お客さん…」
「聞こえなかった」
「いやいや、出てください…」
大事な用かもしれないし、とチカラは言う。
お前とのセックスより大事なもんなんかあるか!!
しばらくチカラの言葉を無視していたけど、2回目のインターホンでいよいよチカラが命令モードになってきた。
「ほら、待ってますよ?」
「……わかったよ…」
頑固者め…
誰だろうと一瞬で追い返してやる。そんでまたさっきの続きを…
なんて考えながらドアを開けると、思いもよらない人物が待っていた。
「師匠!!お疲れ様です!!」
「……ま…」
目の前の人物に殺意を覚えていると、後ろからチカラの声がした。
「真木くん?」
「中谷さん!!あれ、もしかしてお邪魔でした?」
「ま、まさか!!上がって上がって」
チカラが顔を赤くして真木を部屋へ招き入れる。
最悪の展開だ…
「お二人に昨日のお礼をと思いまして。これどうぞー」
「うわーありがとう!!これって関西地方しか売ってない銘菓だよね」
「……用事はそれだけか?」
帰れオーラを全面に出して言うと、真木は「まだあります!!」とかぶりをふった。
「俺、昨日師匠のとんでもない強さを目の当たりにして思ったんです。俺の師匠は、この人とちゃうんやなって…」
「はぁ?」
今さら何を言ってんだコイツは。
もう来ねぇならありがたいけど…
「そんで、新しい師匠なんですけど…」
「どうしても師匠は欲しいんだ」
「……中谷さん!!俺を弟子にしてください!!」
……はぁ!?
なんでそうなる!?
チカラもひどくうろたえている。
「俺思いました。本当に一番強いのは……あんなにも強い師匠の恋人であり、師匠を意のままに操る中谷さんなんやないかって」
「あ、操ってるわけじゃ…」
「でも!!俺は見ました!!中谷さんの一言で急に強くなった師匠を…」
「いや、あれはちょっと…」
「はじめに俺を助けてくれたのも中谷さんの命令あってこそなんですよね!?」
真木の言い分は全く間違っていなかった。
確かに俺はチカラの犬みたいなもんだし、チカラの頼みは絶対断れねぇ。
だけど…
「お願いします!!中谷さん!!」
「えーっと…」
そんなことになって、コイツがチカラの魅力に気づくようなことがあったらどうするんだ。
転校生だっているのに、これ以上チカラの近くに男が増えるなんて…
どうするんだ?という目でチカラを見ると、チカラは頼りなく笑った。
そして真木に向き直る。
「師匠は無理だけど……友達にはなってほしいかな?」
俺も真木も、目を丸くした。
「真木くんと仲良くなりたいし、これからもこうやって遊びにきてほしいな!!」
ねぇ、先輩?とチカラが俺を見る。
「ありがとうございます!!めっちゃ嬉しいです!!」
「お菓子食べよーかぁ」
チカラは真木を居座らせる気満々だ。
どうやらさっきの甘い一時に戻るつもりはないらしい。
コイツは本当、最後の最後まで…
「……お人好し」
そんなお前が、最高に好きだけどな。
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