もうちょっとメイクビリーブ C 「……お前って」 東郷先輩の低い声が屋上に響く。 「何考えてんのか、よくわかんねぇ…」 心臓がギュッと掴まれたみたいに痛んだ。 東郷先輩に、こんな冷たい言葉を言われたの初めてだ… 東郷先輩は急に立ち上がったかと思うと、出入口に向かって歩き出した。 黒坂先輩が「リュウ?」と声をかけると「帰る」と低い声が返ってくる。 「午後の授業出ないの?」 「出ねぇよ……うっせぇな」 黒坂先輩は「ふーん」と納得した様子だ。 俺は歩いていく東郷先輩を見ることもできなかった。 俺、今なんてことを… ガシャン!! という大きな音に振り向くと、屋上の扉がへこんでいた。 どうやら東郷先輩が出ていく時に蹴ったらしい… 「あーあ。リュウくんが壊した」 ……あんなに怒った東郷先輩、初めて見た。 「リュウ帰っちゃったし、俺は教室に戻ろうかな」 そう言って黒坂先輩が立ち上がる。 情けないことに『何か言ってくれないかな』なんて考えていたら、俺の視線に気付いてニッコリ笑った。 「なんかよくわかんないけど……リュウのこと嫌いになったなら、それもそれで仕方ねぇよな」 じゃーねー、と去っていく黒坂先輩。 嫌いになったか、どうかと聞かれると… 「……チカラさん、大丈夫ですか?」 そんなんじゃ、ないのに。 「ごめん、夏樹……俺に合わせてサボらなくても」 五時限目を告げるチャイムが鳴っても、屋上から動けなかった。 夏樹がいてくれて、良かったけど… 「いいんです、チカラさん!!僕で良かったら、お話聞きますよ……?」 「……えっと、実は…」 俺は夏樹の優しさに甘えて、真木くんの話をした。 話してる途中で自分の最低っぷりに涙が出てくる。 「…真木くんは……かわいそうだと思うし、良い子なんだけど……ずっと二人で喋ってるから、俺いらないなって…」 夏樹は俺の背中を撫でながら真剣に耳を傾けてくれている。 「自分でも、どうしてほしいのかわかんなくなっちゃって……俺、意味わかんないよな…」 しかも、自分で突き放しといて泣いてるし… 「チカラさん……わからなくなんかないですよ」 「え?」 「チカラさんは、真木さんにヤキモチ を妬いたんじゃないですか?」 「や……やきもち?」 「恋人が目の前で楽しそうに話してたら、その人にヤキモチを妬いてしまうのは無理ないと思いますよ」 そう言って夏樹が微笑んだ。 そうなのかな?俺、ヤキモチってどういう感情なのかよくわからないんだけど… 「夏樹がそう言うなら…」 俺、ヤキモチ妬いてただけだったのかもしれない。 それなら、なんであんなヒドイこと言っちゃったんだろう。東郷先輩は、いつだって優しくしてくれてたのに… 「……夏樹、俺どうしよう…」 「大丈夫です!!謝れば、きっと許してくれますよ!!」 夏樹が背中をポンポンと叩いてくれた。 俺、友達といい恋人といい、恵まれ過ぎだろう… [*前へ][次へ#] [戻る] |