もうちょっとメイクビリーブ
C
「師匠!!お疲れ様です!!」
「真木……お前、またやられたのか?」
「ちょっとずつ反撃してますよー」
あれから2週間。真木くんは毎日帰り道で東郷先輩を待ちぶせしている。
さすがに防御は覚えたようで、ケガが減っているのが目に見えてわかる。東郷先輩のおかげだな。
「いい加減、ソイツら懲りねぇのか?」
「あっちも意地になってんのとちゃいます?」
東郷先輩は相変わらず面倒くさそうだけど、すごく真木くんの親身になってる。
意外に教えるのが楽しいのかもしれない。
……つまり、俺の居場所は全くなくなってしまった。
あの日覚えた違和感は消えない。
結局、憧れてくれるなら誰でもいいんじゃないか?
東郷先輩が俺を好きになった理由なんて、『偶然』俺が東郷先輩を褒めたからで、それ以外に魅力があるわけでもないし…
俺じゃなくてもいいんだよな、きっと。
「いや、一発ガツンとかましたいとは思うてるんですけどね?やっぱり難しいですわ」
東郷先輩の部屋に、俺と東郷先輩と真木くん。
俺、本当に要らないんじゃあ…
なんか、虚しい。
「真木くんはやっぱ、イジめっ子たちをやっつけたいんだ?」
「もちろんです!!特にボスの奴はコテンパンにしてやりたいですわ」
コテンパンって…
久々に聞いたな。
「師匠は殴られたこととかあるんですか?」
「わざとならあるけど…」
「えっどういうことですか?」
「そういう時もあんだよ……まぁ、なるべく急所に入んないようにしたけど」
「えーどうやってですか?」
「……とにかく、体を…」
東郷先輩の講義が始まった。
暇だなぁ、この時間。
俺は黙っていることしかできない。
ホント俺、なんでここにいるんだ…
「あ、そろそろ帰りますー」
暗くなる少し前に、真木くんが帰る準備を始めた。
「お邪魔しましたー……あ、師匠って勉強できる方ですか?」
「はぁ?」
「期末になったら勉強教えてもらおかなーて…」
「ぜってぇ嫌だ。ほら、早く帰れ」
「えー……じゃあ、失礼しまーす!!」
な、なんか今の勢いだと期末も来そうだな。
俺も東郷先輩に勉強教えてもらおうと思ってたのに…
まぁいいけど!!
部屋に、俺と東郷先輩が残る。
「東郷先輩、真木くんに優しくなりましたね?」
「……まぁ、あんま他人事に見えなくなったっつーのもあるし…」
……そうか。真木くんとなら、そういうのわかりあえるもんね。
俺はわかんないけど。
「つーかよ」と東郷先輩が立ち上がって、こっちに近づいてきた。
「中谷……今日も帰るなんて言わねぇよな?」
「か……帰る」
東郷先輩がため息をついた。
さすがに東郷先輩が何をしたいのかわかるけど、なんかそんな気持ちになれない…
「じゃあ、キスだけならいいか?」
「……や」
だって、そんな別に、キスだって。
俺とじゃなくても、できるじゃん!!
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